《電力・管理》〈変電〉[R06:問2]油入変圧器の内部故障検出に用いられている保護リレーに関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

油入変圧器の内部故障検出に用いられている保護リレーに関して,次の各問にそれぞれ合計\( \ 100 \ \)字程度以内で答えよ。

(1) 電気式リレーである比率差動リレー方式において,励磁突入電流による誤動作防止対策を二つ挙げ,それぞれ概要を述べよ。

(2) 機械式リレー(装置を含む)を二つ挙げ,それぞれ動作の概要を述べよ。

(3) 機械式リレー(装置を含む)において,地震による誤動作が考えられる場合,誤動作防止対策や誤動作した場合に運用面の影響を小さくする対策を二つ挙げ,それぞれ概要を述べよ。

【ワンポイント解説】

変圧器に採用される保護リレーに関する問題です。
\( \ 3 \ \)種でも出題頻度は少ないですが,油入変圧器の保護継電器に関する内容が出題されたことがあるかと思います。\( \ 2 \ \)種以上になると,動作の概要や誤動作防止対策等の知識も必要となってくるので,ここで理解しておきましょう。

1.変圧器に用いられる保護継電器
変圧器内部で発生する事故には,巻線間短絡事故,巻線と鉄心間の地絡事故,高圧巻線と低圧巻線の混触事故,巻線の断線事故,等があり以下の電気的,機械的及び熱的保護装置により検出されます。

①電気的保護装置
変圧器で最も多いのは巻線間短絡事故ですが,一般の過電流リレーや地絡リレーでの検出が困難なため,図1に示すような比率差動継電器が用いられます。
比率差動継電器は,変圧器の一次側と二次側電流を\( \ \mathrm {CT} \ \)を介して検出し,一次側と二次側の差が分かるようにする継電器で,通常時は図1(a)のように動作コイルに流れる電流がほぼ零となるように整定され,異常発生時は図1(b)のように動作コイルに流れる電流が零でなくなります。しかし,一次側と二次側\( \ \mathrm {CT} \ \)の違いや誤差等により,厳密に動作コイルに流れる電流を零とすることができないため,抑制コイルを設けています。また,抑制コイルには外部事故が発生した際等の誤動作防止の役割もあります。

②機械的保護装置
事故発生時には,変圧器内部の油圧変化,ガス圧変化,油流変化等が起こります。代表的な保護装置には以下の継電器があります。また,変圧器内の圧力上昇を抑制するために放圧装置というものも変圧器上部に設けられています。
・衝撃圧力継電器
 タンク内の側壁に取り付けられ,事故時に発生する分解ガスによる内部の圧力上昇を検出します。
・ブッフホルツ継電器
 タンク内とコンサベータを結ぶ連結部に用いられ,ガスが徐々に溜まりマイクロスイッチを叩くと動作します。地震等の振動で誤動作しやすいので、信頼度もあまり高くなく警報回路のみに使用されることが多いです。


出典:公益財団法人 日本電気技術者協会 電気技術解説講座 特別高圧用変圧器の機械的保護継電器
URL:https://jeea.or.jp/course/contents/08204/

③熱的保護・監視装置
変圧器に使用する絶縁油の油温度や巻線温度の上昇を検出するために,ダイヤル温度計や巻線温度指示装置が設けられています。
もちろん通常運転時にも油温度や巻線温度は上昇するため,異常に温度が上昇したときのみ警報が発信されるようになっています。

2.励磁突入電流
変圧器を遮断器投入によって電路に接続すると,投入時の電圧の位相によっては定格電流の数倍から十数倍の大きな励磁電流が流れることがあり,これを励磁突入電流といいます。
ファラデーの電磁誘導の法則より,電圧\( \ e \ \mathrm {[V]} \ \)と磁束\( \ \phi \ \mathrm {[Wb]} \ \)には,
\[
\begin{eqnarray}
e&=&-N\frac {\mathrm {d}\phi }{\mathrm {d}t} \\[ 5pt ] N\mathrm {d}\phi &=&-e\mathrm {d}t \\[ 5pt ] N\int \mathrm {d}\phi &=&-\int e\mathrm {d}t \\[ 5pt ] N\phi &=&-\int e\mathrm {d}t \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] という積分の関係があるため,仮に正弦波の電圧が加わっている状態で図2の+から-に切り替わる\( \ 0 \ \mathrm {[V]} \ \)付近で投入された場合には,最大で\( \ 2 \ \)倍程度の磁束が発生し,残留磁束の影響でさらに磁束が大きくなると鉄心の飽和磁束密度を超えて大きな励磁電流が流れる可能性があります。
したがって,励磁突入電流の対策としては励磁磁束と残留磁束の合計値を小さくすれば良いので,残留磁束の消去や投入位相の制御等が有効となります。
また,励磁突入電流の特徴として,
 ・第二調波成分を多く含む。
 ・残留磁束と同極性の電圧が位相差がなく印加された時最大となる。
 ・励磁突入電流の大きさは最大で定格の\( \ 10 \ \)倍以上となることがある。
 ・励磁突入電流の継続時間は小容量で数秒程度,大容量では\( \ 10 \ \)秒以上にもなる。
等があるので,比率差動継電器においても,
・変圧器投入後一定時間継電器をロックする方法
・第二調波抑制付比率差動電器を用いる方法
等の対策がとられます。

【解答】

(1)比率差動リレー方式における励磁突入電流による誤動作防止対策二つ
(ポイント)
・ワンポイント解説「2.励磁突入電流」の通りです。
・二つで\( \ 100 \ \)字程度なので,解答では原理や理由等の説明は不要となりますが,今後の試験対策としては覚えておくと良いでしょう。

(試験センター解答例)
以下の誤動作防止対策から二つ記載されていればよい。
・磁気飽和により第二調波成分が多く含有することを利用した抑制コイルを付加した高調波抑制付きリレーにより誤動作を防止させる方法。
・変圧器投入後,一定時間リレーの感度を低下させておき誤動作を防止させる方法。
・変圧器投入後,一定時間リレーのトリップ回路をロックすることで誤動作を防止させる方法。

(2)機械式リレー(装置を含む)を二つ挙げ,それぞれ動作の概要
(ポイント)
・ワンポイント解説「1.変圧器に用いられる保護継電器 ②機械的保護装置」の通りです。
・衝撃圧力リレーやブッフホルツリレーは他の年度でも出題されたことがあるので,名称を覚えておきましょう。

(試験センター解答例)
以下の機械式リレー(装置含む)から二つ記載されていればよい。
・衝撃圧力(ガス圧・油圧)リレー:内部故障時の分解ガスによって変圧器タンク内のガス又は油の圧力が上昇した時に動作する。
・ブッフホルツ(ピトー)リレー:内部故障時の分解ガス,蒸気の発生,油流の変化を検出し動作する。
・ガス検出リレー:ガスが一定量溜まり,油面が下がると動作する。
・放圧装置:内部故障に伴う内部圧力上昇に対して,タンクの変形や破壊を防止する装置。

(3)機械式リレーにおいて,地震による誤動作防止対策や誤動作した場合に運用面の影響を小さくする対策二つ
(ポイント)
・機械式リレーについては警報用としたり,複数のリレーを組み合わせて冗長化するのが一般的となります。

(試験センター解答例)
以下の対策から二つ記載されていればよい。
・機械式リレー(装置含む)をトリップ用ではなく警報用として用いる。
・一つの機械式リレーのみを用いて変圧器を停止させるのではなく,同種機械式リレーの複数又は地震計と組み合わせて変圧器の停止を判断する。
・地震に対して,接点部にピトー管やベロー構造等を設け,誤動作しない(しにくい)設計のリレーを採用する。
・地震により誤動作し漏油等が発生した場合でも,その後変圧器の運用継続可能な自動復帰形放圧装置を採用する。



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