《機械・制御》〈回転機〉[H30:問1]三相かご形誘導電動機の始動方式に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

三相かご形誘導電動機の始動方式に関し,次の問に答えよ。

(1) 数キロワット以上の中小容量の三相かご形誘導電動機を全電圧始動した場合,定格電流の\(5~8\)倍程度の始動電流が流れる。この始動電流によって電動機に関連する設備に生じる可能性がある問題点を二つ挙げよ。

(2) スターデルタ始動方式を用いた場合,始動電流をほぼ\(\displaystyle \frac {1}{3}\)にすることができる。その理由を述べよ。

(3) スターデルタ始動方式を用いて始動電流を低減させた場合の問題点を二つ挙げよ。

(4) インバータを用いて,周波数及び電圧を制御して始動し,定格速度まで連続的に加速するインバータ始動方式の優位な点を二つ挙げよ。

【ワンポイント解説】

近年では珍しい機械制御の論説問題です。この問題が解けると,他の設問に時間をかけることができ,合格に近づいたのではないかと思います。かご形誘導電動機の始動法は三種の頃から内容がほぼ変わっていません。復習しておくようにしましょう。

1.全電圧始動法
電動機に始動装置を設けずに全電圧を印加して始動する方法です。始動電流が大きいため\( \ 3.7 \ \mathrm {kW} \ \)以下の小容量の電動機の場合にしか用いられません。

2.\(\mathrm {Y}-\Delta \)始動法
始動時は\(\mathrm {Y}\)巻線,定格時には\(\Delta \)巻線で運転する方法です。\(\mathrm {Y}\)巻線は\(\Delta \)巻線と比較して電圧が\(\displaystyle \frac {1}{\sqrt {3}}\)倍となるので,それぞれの始動電流の大きさの比は,
\[
\begin{eqnarray}
I_{\mathrm {Y}} &=&\frac {\frac {V}{\sqrt {3}}}{Z} \\[ 5pt ] &=&\frac {V}{\sqrt {3}Z} \\[ 5pt ] I_{\mathrm {\Delta }} &=&\frac {\sqrt {3}V}{Z} \\[ 5pt ] \frac {I_{\mathrm {Y}}}{I_{\mathrm {\Delta }}}&=&\frac {\frac {V}{\sqrt {3}Z}}{\frac {\sqrt {3}V}{Z}} \\[ 5pt ] &=&\frac {1}{3} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,始動トルクの比は,
\[
\begin{eqnarray}
\frac {T_{\mathrm {Y}}}{T_{\Delta }} &=&\frac {\left( \frac {V}{\sqrt {3}}\right) ^{2}}{V^{2}} \\[ 5pt ] &=&\frac {1}{3} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

3.補償器始動法
始動時のみ,三相単巻変圧器を用いて,変圧器のタップを切り替えることによって始動する方法です。電圧を\(\displaystyle \frac {1}{n}\)倍にすると,始動電流と始動トルクをともに\(\displaystyle \frac {1}{n^{2}}\)倍にすることができます。

4.リアクトル始動法
始動時のみ,電動機と直列にリアクトルを接続して始動する方法で,始動時の端子電圧を\(\displaystyle \frac {1}{n}\)倍にすると,始動電流を\(\displaystyle \frac {1}{n}\)倍,始動トルクを\(\displaystyle \frac {1}{n^{2}}\)倍にすることができます。

5.インバータ始動法
インバータを使用して\(\displaystyle \frac {V}{f}\)を制御して始動する方法で,始動電流を定格電流の\(2\)倍程度までに抑えることができ,始動トルクの低下も少なめとなっています。

【解答】

(1)電圧始動した場合,始動電流によって電動機に関連する設備に生じる可能性がある問題点を二つ
(ポイント)
・電流が多く流れた場合に生じる問題点を想定し列挙します。
・大電流は電圧降下や設備の負担,配線の焼損等を招きます。

(試験センター解答例)
三相かご形誘導電動機を全電圧始動した場合,次のような問題が生じる可能性がある。
a. 過大な始動電流のため大きな電圧降下を生じる。
b. 過大な始動電流のためブレーカの動作を招く。
c. 電動機への配線の焼損の可能性がある。
d. 始動電流に対応するため定格設備容量より過大な設備容量が必要となる。
e. 始動時の機械的ショックが大きい。
f. 始動電流値に対応する保護機器を選定すると適切な保護機能が得られない。

(2)スターデルタ始動方式をで始動電流をほぼ\(\displaystyle \frac {1}{3}\)にできる理由
(ポイント)
・ワンポイント解説「2.\(\mathrm {Y}-\Delta \)始動法」の通りです。

(試験センター解答)
スターデルタ始動方式は電動機の各相の巻線を,始動時にはスター結線とすることによって相電圧が\(\displaystyle \frac {1}{\sqrt {3}}\)となり,始動終了後デルタ結線に切り換えることによって電源電圧を各相に供給する方式である。スター結線時はデルタ結線時と比較して電源から見た見かけ上のインピーダンスが\(3\)倍となるので,線電流が\(\displaystyle \frac {1}{3}\)となる。

(別解)
スター結線時は相電圧は線間電圧の\(\displaystyle \frac {1}{\sqrt {3}}\)となるので線電流も\(\displaystyle \frac {1}{\sqrt {3}}\)となる。デルタ結線時の線電流は相電流の\(\sqrt {3}\)倍となる。両者の比をとると,スター結線時の線電流はデルタ結線時の\(\displaystyle \frac {1}{3}\)となる。

(3)スターデルタ始動方式を用いて始動電流を低減させた場合の問題点を二つ
(ポイント)
・\(\mathrm {Y}\)結線と\(\Delta \)結線では角変位がある(位相差が\(30°\)ある)ことが最大の問題点となります。
・ワンポイント解説「2.\(\mathrm {Y}-\Delta \)始動法」の通り,始動電流値を下げることもできますが,始動トルクも下がってしまう問題点もあります。

(試験センター解答)
スターデルタ始動方式を用いた場合の問題点として次のようなものがある。
a. 始動トルクが約\(\displaystyle \frac {1}{3}\)に低下するため適用できる負荷が限られる。
b. 始動トルクが低下するので始動時間が長くなる。
c. スターからデルタに切り換える際に過大な突入電流が生じることがある。
d. 切換え時の電源位相によっては突入電流により,ブレーカの動作を招く。
e. 切換え時の無電圧時間は電動機が空転するためデルタ投入時に機械的ショックを生じる。

(4)インバータ始動方式の優位な点を二つ
(ポイント)
・ワンポイント解説「5.インバータ始動法」の通り,始動電流を抑えることもでき,始動トルクもあまり低下しない特徴があります。

(試験センター解答)
インバータを用いて,電動機の一次周波数を最低周波数から定格値まで順次上昇させ,電動機の同期速度を連続的に変えて加速する方式であり,次のような優位な点がある。
a. 通常は\(\displaystyle \frac {V}{f}\)を基本とし,電圧特性に補正を施した制御を行うので低周波低電圧でも磁束が低下せず始動トルクが低下しない。
b. 始動電流が定格電流の約\(2\)倍程度以下になる。
c. 始動時間をインバータによって制御できる。
d. 始動期間に生じる電動機の損失が少なく,発熱を抑制できる。
e. ソフトスタートにより始動による機械的ショックが小さい。
f. 始動電流や突入電流による他の機器への影響が少ない。



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