《電力》〈原子力〉[H29:問4]原子力発電所の電力による揚水発電量に関する計算問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

原子力発電に用いられる\( \ M \ \left[ \mathrm {g}\right] \ \)のウラン\( \ 235 \ \)を核分裂させたときに発生するエネルギーを考える。ここで想定する原子力発電所では,上記エネルギーの\( \ 30 \ % \ \)を電力量として取り出すことができるものとし,この電力量をすべて使用して,揚水式発電所で揚水できた水量は\( \ 90 \ 000 \ \mathrm {m^{3}} \ \)であった。このときの\( \ M \ \)の値\( \ \left[ \mathrm {g}\right] \ \)として,最も近い値を次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
ただし,揚水式発電所の揚程は\( \ 240 \ \mathrm {m} \ \),揚水時の電動機とポンプの総合効率は\( \ 84 \ % \ \)とする。また,原子力発電所から揚水式発電所への送電で生じる損失は無視できるものとする。
なお,計算には必要に応じて次の数値を用いること。
 核分裂時のウラン\( \ 235 \ \)の質量欠損\( \ 0.09 \ % \ \)
 ウランの原子番号\( \ 92 \ \)
 真空中の光の速度\( \ 3.0\times 10^{8} \ \mathrm {m/s} \ \)

(1) \(0.9\)  (2) \(3.1\)  (3) \(7.3\)  (4) \(8.7\)  (5) \(10.4\)

【ワンポイント解説】

原子力発電所と揚水式水力発電所の両方の知識を問う問題です。実際に,電力会社でも夜間は出力調整できない原子力発電所で余った電力を揚水発電するため,電力システムの実態に沿った良問であると思います。

1.質量欠損\( \ \Delta M \ \)とエネルギー\( \ E \ \)の関係
真空中の光の速度を\( \ c \ \)とすると,
\[
\begin{eqnarray}
E&=&\Delta M c^{2} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] との関係があります。

2.揚水式発電所の電力\( \ P \ \)
流量を\( \ Q \ \),有効揚程を\( \ H \ \)とすると,発電時及び揚水時の電力計算は以下の通りとなります。

①発電時の出力\( \ P_{\mathrm {g}} \ \)
水車と発電機の総合効率を\( \ \eta _{1} \ \)とすると,
\[
\begin{eqnarray}
P_{\mathrm {g}}&=&9.8QH\eta _{1} \left[ \mathrm {kW}\right] \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となる。

②揚水運転時の必要動力\( \ P_{\mathrm {m}} \ \)
ポンプと電動機の総合効率を\( \ \eta _{2} \ \)とすると,
\[
\begin{eqnarray}
P_{\mathrm {m}}&=&\frac {9.8QH}{\eta _{2}} \left[ \mathrm {kW}\right] \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となる。

【解答】

解答:(5)
①原子力発電所での発電量\( \ W_{\mathrm {U}} \ \)
質量欠損\( \ \Delta M \ \)が\( \ 0.09% \ \)であるから,
\[
\begin{eqnarray}
\Delta M&=&\frac {0.09}{100}\cdot \frac {M}{1000} \ \mathrm {[kg]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] である。ワンポイント解説「1.質量欠損\( \ \Delta M \ \)とエネルギー\( \ E \ \)の関係」より,発電所に投入されるエネルギー\( \ E \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
E&=&\Delta M c^{2} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となるので,総発電量\( \ W_{\mathrm {U}}\left[ \mathrm {kW\cdot s}\right] \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
W_{\mathrm {U}} &=& E\times \frac {30}{100}\times \frac {1}{1000} \\[ 5pt ] &=& \Delta M c^{2}\times \frac {30}{100}\times \frac {1}{1000} \\[ 5pt ] &=& \frac {0.09}{100}\cdot \frac {M}{1000}\times \left( 3.0\times 10^{8}\right) ^{2}\times \frac {30}{100}\times \frac {1}{1000} \\[ 5pt ] &=& 2.43\times 10^{7}M \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となる。

②揚水発電所での必要電力量\( \ W_{\mathrm {W}} \ \)
揚水式発電所での総揚水量が\( \ 90000\mathrm {m^{3}} \ \)であるから,時間\( \ t\left[ \mathrm {s}\right] \ \)の間に揚水したとすると,流量\( \ Q \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
Q&=&\frac {90000}{t} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となる。ワンポイント解説「2.揚水式発電所の電力\( \ P \ \)」より,揚水運転時の必要動力\( \ P_{\mathrm {m}} \ \)は,ポンプと電動機の総合効率を\( \ \eta _{2} \ \)とすると,
\[
\begin{eqnarray}
P_{\mathrm {m}}&=&\frac {9.8QH}{\eta _{2}} \\[ 5pt ] &=&\frac {9.8\times \frac {90000}{t}\times 240}{\frac {84}{100}} \\[ 5pt ] &=&\frac {9.8\times 90000\times 240\times 100}{84t} \\[ 5pt ] &=&\frac {2.52\times 10^{8}}{t} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,必要電力量\( \ W_{\mathrm {W}} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
W_{\mathrm {W}}&=&P_{\mathrm {m}}t \\[ 5pt ] &=&2.52\times 10^{8} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となる。

③原子力発電所に用いられるウランの量\( \ M \ \)
題意より,送電損失は無視できるので,\( \ W_{\mathrm {U}}=W_{\mathrm {W}} \ \)となる。よって,
\[
\begin{eqnarray}
2.43\times 10^{7}M&=&2.52\times 10^{8} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,\( \ M \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
M&≒&10.37 → 10.4 \ \mathrm {[g]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。