《電力》〈火力〉[R4上:問3]汽力発電設備のタービン効率に関する計算問題


【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

ある汽力発電設備が,発電機出力\( \ 19 \ \mathrm {MW} \ \)で運転している。このとき,蒸気タービン入口における蒸気の比エンタルピーが\( \ 3 550 \ \mathrm {kJ/kg} \ \),復水器入口における蒸気の比エンタルピーが\( \ 2 500 \ \mathrm {kJ / kg} \ \),使用蒸気量が\( \ 80 \ \mathrm {t / h} \ \)であった。発電機効率が\( \ 95 \ % \ \)であるとすると,タービン効率の値\( \ [%] \ \)として,最も近いものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

 (1) \( \ 71 \ \)  (2) \( \ 77 \ \)  (3) \( \ 81 \ \)  (4) \( \ 86 \ \)  (5) \( \ 90 \ \)  

【ワンポイント解説】

汽力発電所のタービン効率に関するエンタルピー演算の問題です。
汽力発電の計算では\( \ \mathrm {[MW]} \ \)や\( \ \mathrm {[t]} \ \)他非常に大きな値を扱うことが多く,演算をきちんと行うことができるかがポイントとなります。
特に\( \ 1 \ \mathrm {[kW \cdot h]}=3 \ 600 \ \mathrm {[kJ]} \)の変換はよく使用される変換なので,しっかりと理解しておくようにして下さい。

1.汽力発電所の主な構成設備
一般的な汽力発電所の主な構成設備を図1に示します。電験の受験においてはもう少し細かい設備も覚える必要がありますので,令和3年問3の図も合わせて見ておくようにして下さい。

給水ポンプ :復水器から出た水を昇圧し,ボイラへ供給する
ボイラ   :給水を加熱し,飽和蒸気にする
過熱器   :湿気を含む飽和蒸気を,さらに加熱し過熱蒸気にする
蒸気タービン:蒸気の運動エネルギー、圧力エネルギーを回転エネルギーにする
発電機   :回転エネルギーを電気エネルギーにする
復水器   :蒸気タービンで仕事をした蒸気を水に戻す

2.汽力発電所の各効率
汽力発電所で用いられる効率は以下の通りです。効率の低下は燃料の使用量(支出)に影響するため,電力会社では熱効率が非常に重要なファクターとなっています。

①ボイラ効率\( \ \eta _{\mathrm {B}} \ \)
ボイラで燃料を燃焼し,給水を蒸気にする際の熱交換率の指標です。排ガス損失等があります。
\[
\begin{eqnarray}
\eta _{\mathrm {B}}&=&\frac {ボイラの蒸気として得た熱量}{燃料使用量から換算した熱量} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

②タービン室効率\( \ \eta _{\mathrm {T}} \ \)
タービンに入った蒸気がどの程度のタービン出力になるかの効率で,タービン室という名前はタービンと復水器を合わせた効率という意味です。一般的が汽力発電所では一番ロスが大きい場所となります。
\[
\begin{eqnarray}
\eta _{\mathrm {T}}&=&\frac {タービン軸出力}{タービンへ入る蒸気の熱量} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

※本問においてはタービン単体のタービン効率を扱っています。復水器を含まないことに注意して下さい。

③発電機効率\( \ \eta _{\mathrm {G}} \ \)
発電機の風損や巻線抵抗損等を考慮した効率で,一般的な水素発電機では\( \ \mathrm {98~99%} \ \)程度となっています。
\[
\begin{eqnarray}
\eta _{\mathrm {G}}&=&\frac {発電機出力}{タービン軸出力} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

④発電端効率\( \ \eta _{\mathrm {P}} \ \)
発電ユニットの効率を表すもので,燃料の熱量がどの程度発電されたかを示す指標です。
\[
\begin{eqnarray}
\eta _{\mathrm {P}}&=&\frac {発電機出力}{燃料使用量から換算した熱量}&=&\eta _{\mathrm {B}}\cdot \eta _{\mathrm {T}}\cdot \eta _{\mathrm {G}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

⑤送電端効率\( \ \eta _{\mathrm {S}} \ \)
発電端効率から所内率\( \ L \ \)を考慮し算出した効率で,発電所としての総合効率の指標となります。
\[
\begin{eqnarray}
\eta _{\mathrm {S}}&=&\eta _{\mathrm {P}}( 1-L ) \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

3.\( \ \mathrm {[kJ]} \ \)と\( \ \mathrm {[kW\cdot h]} \ \)の変換
単位の定義より,
\[
\begin{eqnarray}
1 \ \mathrm {[kJ/s]} &=&1 \ \mathrm {[kW]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] であるから,両辺の単位に\( \ \mathrm {[s]} \ \)をかけると,
\[
\begin{eqnarray}
1 \ \mathrm {[kJ]} &=&1 \ \mathrm {[kW\cdot s]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,両辺に\( \ 1 \ \mathrm {[h]}=3600 \ \mathrm {[s]} \ \)を考慮して,\( \ 3600 \ \)をかけると,
\[
\begin{eqnarray}
3 \ 600 \ \mathrm {[kJ]} &=&1 \ \mathrm {[kW\cdot h]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

【解答】

解答:(4)
発電機出力\( \ 19 \ \mathrm {MW} \ \)で\( \ 1 \ \)時間運転したときの発電電力量\( \ W \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
W &=&19 \ \mathrm {[MW\cdot h]} \\[ 5pt ] &=&19 \ 000 \ \mathrm {[kW\cdot h]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] であり,これを熱量換算した値\( \ Q_{\mathrm {o}} \ \mathrm {[kJ]} \ \)は,ワンポイント解説「3.\( \ \mathrm {[kJ]} \ \)と\( \ \mathrm {[kW\cdot h]} \ \)の変換」の通り,
\[
\begin{eqnarray}
Q_{\mathrm {o}} &=&3 \ 600W \\[ 5pt ] &=&3 \ 600\times 19 \ 000 \\[ 5pt ] &=&68 \ 400 \ 000 \ \mathrm {[kJ]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となる。また,問題文に与えられている比エンタルピーは図2に示す部分のエンタルピーであるので,\( \ 1 \ \)時間あたりに蒸気タービンが消費した熱量\( \ Q_{\mathrm {i}} \ \mathrm {[kJ]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
Q_{\mathrm {i}} &=&\left( 3 \ 550 -2500 \right) \times 80 \times 1000 \\[ 5pt ] &=&84 \ 000 \ 000 \ \mathrm {[kJ]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となる。\( \ Q_{\mathrm {i}} \ \)と\( \ Q_{\mathrm {o}} \ \)の関係は,タービン効率\( \ \eta _{\mathrm {T}} \ \)と発電機効率\( \ \eta _{\mathrm {G}} =0.95 \ \)の総合効率であるので,
\[
\begin{eqnarray}
\eta _{\mathrm {T}} \eta _{\mathrm {G}} &=&\frac {Q_{\mathrm {o}}}{Q_{\mathrm {i}}} \\[ 5pt ] \eta _{\mathrm {T}} \times 0.95&=&\frac {68 \ 400 \ 000}{84 \ 000 \ 000} \\[ 5pt ] \eta _{\mathrm {T}}&=&\frac {68 \ 400 \ 000}{84 \ 000 \ 000\times 0.95} \\[ 5pt ] &≒&0.857 → 85.7 \ \mathrm {[%]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。