《機械》〈変圧器〉[R2:問8]変圧器の巻線や鉄心,冷媒等の構造や特徴に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

変圧器の構造に関する記述として,誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

(1) 変圧器の巻線には軟銅線が用いられる。巻線の方法としては,鉄心に絶縁を施し,その上に巻線を直接巻きつける方法,円筒巻線や板状巻線としてこれを鉄心にはめ込む方法などがある。

(2) 変圧器の鉄心には,飽和磁束密度と比透磁率が大きい電磁鋼板が用いられる。この鋼板は,渦電流損を低減するためケイ素が数%含有され,さらにヒステリシス損を低減するために表面が絶縁被膜で覆われている。

(3) 変圧器の冷却方式には用いる冷媒によって,絶縁油を使用する油入式と空気を使用する乾式,さらにガス冷却式などがある。

(4) 変圧器油は,変圧器本体を浸し,巻線の絶縁耐力を高めるとともに,冷却によって本体の温度上昇を防ぐために用いられる。また,化学的に安定で,引火点が高く,流動性に富み比熱が大きくて冷却効果が大きいなどの性質を備えることが必要となる。

(5) 大型の油入変圧器では,負荷変動に伴い油の温度が変動し,油が膨張・収縮を繰り返すため,外気が変圧器内部に出入りを繰り返す。これを変圧器の呼吸作用といい,油の劣化の原因となる。この劣化を防止するため,本体の外にコンサベータやブリーザを設ける。

【ワンポイント解説】

変圧器の構造に関する問題で,間違いは比較的明らかなので,気が付けばそれほど時間を要しませんが,文章が長いため見逃すと知識があってもなかなか正答を導き出せない問題です。
高い集中力を持って正答を選択できるようにしましょう。
どちらかというと,電力科目の電気材料で出題されそうな問題かもしれません。

1.ケイ素鋼の特徴
鉄にケイ素を加えた材料で,一般に以下のような特徴があります。
 ・加工性に優れる
 ・安価である
 ・小型にでき,軽量となる
 ・鉄損が大きい
 ・強度が低い
ケイ素の含有量が増えると脆くなりやすいため,3~5%程度含有することが多いです。

2.ヒステリシス損
ヒステリシス損は図1に示すような交番磁界を加えることによって,鉄心材料に残留磁気が残ることに発生する損失で,材料によって特性が異なります。図1の青色の線で囲まれた面積が交番磁界1サイクルあたりに生ずるヒステリシス損になるので,ヒステリシス損はヒステリシス曲線で囲まれた面積と交番磁界の周波数に比例することになります。

3.渦電流損
図2に示すように交番磁界が磁性材料を通過した際に流れる渦電流による損失で,図2の厚さが小さくなれば2乗に比例して渦電流が発生しにくくなります。

4.絶縁油に求められる特性
絶縁油は変圧器やコンデンサ等の電気機器に多用途に使用されるため,高い信頼性と安全性が求められます。主な求められる特性は以下の通りです。
 ① 絶縁耐力が大きいこと
 ② 耐熱性に優れていること
 ③ 経年劣化しにくいこと
 ④ 粘度が低く,流動性が良いこと
 ⑤ 放熱性が良いこと
 ⑥ 化学的に安定であること
 ⑦ 引火点や発火点の温度が高いこと
 ⑧ 誘電損(誘電正接)が小さいこと

5.変圧器の呼吸作用
変圧器に使用される絶縁油は温度上昇等により膨張収縮を繰り返すため,圧力の逃がし場所を設ける必要があります。
しかしながら,そのまま外気に触れると絶縁油が酸化劣化してしまうため,変圧器本体とは別にコンサベータという油の膨張室を設けます。
コンサベータ内の油と空気はゴム隔膜で絶縁されているため,直接触れ合うことがなく絶縁油の劣化が防止できます。
また,コンサベータ内の結露を防ぐ目的で,空気の吸気口には吸湿材(シリカゲル)を配置できるブリーザを設けます。

【関連する「電気の神髄」記事】

  変圧器の無負荷損

【解答】

解答:(2)
(1)正しい
変圧器の巻線には軟銅線が用いられ,巻線の方法としては,鉄心に絶縁を施し,その上に巻線を直接巻きつける方法,円筒巻線や板状巻線としてこれを鉄心にはめ込む方法などがあります。

(2)誤り
変圧器の鉄心には,飽和磁束密度と比透磁率が大きい電磁鋼板が用いられ,ヒステリシス損を低減するためケイ素が数%含有され,さらに渦電流損を低減するために表面が絶縁被膜で覆われています。ワンポイント解説「2.ヒステリシス損」及び「3.渦電流損」の通り,ヒステリシス損は材料のヒステリシス特性による損失で,渦電流損は導体を流れる渦電流による損失になります。表面が絶縁被膜で覆われた薄いケイ素鋼板を積み重ねた積層鉄心というイメージを持っておくと良いと思います。

(3)正しい
変圧器の冷却方式には用いる冷媒によって,絶縁油を使用する油入式と空気を使用する乾式,さらにガス冷却式などがあります。さらに自然対流による自冷式,強制通風による風冷式などに区別することがあります。

(4)正しい
ワンポイント解説「4.絶縁油に求められる特性」の通り,変圧器油は,変圧器本体を浸し,巻線の絶縁耐力を高めるとともに,冷却によって本体の温度上昇を防ぐために用いられます。また,化学的に安定で,引火点が高く,流動性に富み比熱が大きくて冷却効果が大きいなどの性質を備えることも必要となります。

(5)正しい
ワンポイント解説「5.変圧器の呼吸作用」の通り,大型の油入変圧器では,負荷変動に伴い油の温度が変動し,油が膨張・収縮を繰り返すため,外気が変圧器内部に出入りを繰り返す呼吸作用があり,油の劣化の原因となるため,本体の外にコンサベータやブリーザを設け,油の劣化を防止します。