《機械》〈回転機〉[R3:問3]三相誘導電動機の始動トルクと定格負荷運転時の効率に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

一定電圧,一定周波数の電源で運転される三相誘導電動機の特性に関する記述として,誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

(1) かご形誘導電動機では,回転子の導体に用いる棒の材料を銅から銅合金に変更すれば,等価回路の二次抵抗の値が増大するので,定格負荷時の効率が低下する。

(2) 巻線形誘導電動機では,トルクの比例推移により,二次抵抗の値を大きくすると,最大トルク(停動トルク)を発生する滑りが小さくなり,始動特性が良くなる。

(3) 巻線形誘導電動機では,外部の可変抵抗器で二次抵抗値を変化させ,大きな始動トルクと定格負荷時高効率の両方を実現することができる。

(4) 二重かご形誘導電動機では,始動時に回転子スロット入口に近い断面積が小さい高抵抗の導体に,定格負荷時には回転子内部の断面積が大きい低抵抗の導体に主要な二次電流を流し,大きな始動トルクと定格負荷時高効率の両方を実現することができる。

(5) 深溝かご形誘導電動機では,幅が狭い平たい二次導体の表皮効果による抵抗値の変化を利用し,大きな始動トルクと定格負荷時高効率の両方を実現することができる。

【ワンポイント解説】

三相誘導電動機の特性に関する問題です。
幅広い範囲からの出題で,総合的な知識が求められる問題ですが,トルクの比例推移をしっかりと理解していれば解ける問題かと思います。

1.三相誘導電動機の同期速度\( \ N_{\mathrm {s}} \ \)
三相誘導電動機の極数が\( \ p \ \),電源の周波数が\( \ f \ \)の時,同期速度\( \ N_{\mathrm {s}} \ \)は
\[
\begin{eqnarray}
N_{\mathrm {s}} &=&\frac {120f}{p} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

2.誘導機の滑り\( \ s \ \)
誘導機の同期速度が\( \ N_{\mathrm {s}} \ \),回転数が\( \ N \ \)である時,誘導機の滑り\( \ s \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
s &=&\frac {N_{\mathrm {s}}-N}{N_{\mathrm {s}}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

3.二次入力\( \ P_{2} \ \)と出力\( \ P_{\mathrm {o}} \ \)と二次銅損\( \ P_{\mathrm {c2}} \ \)の関係
誘導電動機の\( \ \mathrm {L} \ \)形等価回路は図1のようになります。図1において,\( \ {\dot V}_{1} \ \)は一次側端子電圧,\( \ {\dot I}_{1} \ \)は一次電流,\( \ {\dot I}_{2} \ \)は二次電流,\( \ {\dot I}_{0} \ \)は励磁電流,\( \ r_{1} \ \)は一次巻線抵抗,\( \ r_{2}^{\prime } \ \)は二次巻線抵抗の一次換算,\( \ x_{1} \ \)は一次漏れリアクタンス,\( \ x_{2}^{\prime } \ \)は二次漏れリアクタンスの一次換算,\( \ s \ \)は滑りとなります。
図1より,出力\( \ P_{\mathrm {o}} \ \),二次銅損\( \ P_{\mathrm {c2}} \ \),二次入力\( \ P_{2} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
P_{\mathrm {o}} &=& 3\frac {1-s}{s}r_{2}^{\prime }I_{2}^{2} \\[ 5pt ] P_{\mathrm {c2}} &=& 3r_{2}^{\prime }I_{2}^{2} \\[ 5pt ] P_{2} &=& P_{\mathrm {o}}+P_{\mathrm {c2}} =3\frac {r_{2}^{\prime }}{s}I_{2}^{2} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,誘導電動機の二次入力\( \ P_{2} \ \),出力\( \ P_{\mathrm {o}} \ \),二次銅損\( \ P_{\mathrm {c2}} \ \)には,
\[
\begin{eqnarray}
P_{2}:P_{\mathrm {o}}:P_{\mathrm {c2}} &=& 1:(1-s):s \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] の関係があることが分かります。

4.巻線形誘導電動機のトルクの比例推移
三相誘導電動機のトルク\( \ T \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
T &=& \frac {1}{\omega _{\mathrm {s}}}\frac {3V_{1}^{2}\displaystyle \frac {r_{2}^{\prime }}{s}}{\left( r_{1}+\displaystyle \frac {r_{2}^{\prime }}{s}\right) ^{2}+\left( x_{1}+x_{2}^{\prime }\right) ^{2}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] であり,\( \ 1≫s \ \)の時,\( \ r_{2}^{\prime } \ \)以外の抵抗やリアクタンスは無視できるので,
\[
\begin{eqnarray}
T &≃& \frac {3V_{1}^{2}s}{\omega _{\mathrm {s}}r_{2}^{\prime }} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,トルクに対する変数は可変抵抗である二次抵抗\( \ r_{2}^{\prime } \ \)と滑り\( \ s \ \)のみであり,トルク\( \ T \ \)を一定とすると,
\[
\begin{eqnarray}
\frac {r_{2}^{\prime }}{s} &=& 一定 \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] の関係があります。

5.特殊かご形電動機
始動電流を抑制するため回転子側の形状を工夫した電動機です。

①深溝かご形電動機
深溝かご形回転子の概要を図2に示します。図2に示すように深溝かご形回転子は回転子に深いスロットを設け,そこに導体を入れたような構造となっています。始動時回転子内の漏れ磁束は外側ほど小さくなり,始動時ほとんどの電流が導体の外側を流れ,抵抗が大きくなります。その後回転数が上がると,電流は一様に分布するようになり,抵抗が小さくなります。

②二重かご形電動機
二重かご形回転子の概要を図3に示します。図に示すように,二重かご形回転子は,内側と外側に二つの導体を入れ,外側の方を小さく,すなわち高抵抗となるようにします。始動時,深溝かご形回転子と同様に,外側ほど漏れ磁束が小さいので,ほとんどの電流が外側を流れます。その後,回転数が大きくなると,低抵抗である内側の導体を流れるようになります。

【解答】

解答:(2)
(1)正しい
問題文の通り,回転子の導体(二次側導体)に用いる棒を導電率の高い銅から導電率の低い銅合金にすると,等価回路の二次抵抗の値が増大するため,二次銅損が増大し効率が低下します。

(2)誤り
巻線形誘導電動機では,ワンポイント解説「4.巻線形誘導電動機のトルクの比例推移」の通り,トルクの比例推移により二次抵抗の値を大きくすると最大トルク(停動トルク)を発生する滑りも大きくなります。

(3)正しい
問題文の通り,トルクの比例推移により,巻線形誘導電動機では可変抵抗器により始動時は二次抵抗値を大きくし大きな始動トルクを得ることができ,定格負荷時は二次抵抗値を小さくして高効率を実現することができます。

(4)正しい
ワンポイント解説「5.特殊かご形電動機」の通り,始動時は外側の断面積が小さい高抵抗の導体に二次電流を流すことで大きな始動トルクを得ることができ,定格負荷時は内側の断面積が大きい低抵抗の導体に二次電流を流すことで高効率を実現することができます。

(5)正しい
ワンポイント解説「5.特殊かご形電動機」の通り,深溝かご形誘導電動機は,幅が狭い平たい二次導体を利用して,抵抗値の変化を利用し大きな始動トルクと高効率を実現することができます。