【問題】
【難易度】★★★★☆(やや難しい)
図1は,単相インバータで誘導性負荷に給電する基本回路を示す。負荷電流\( \ i_{\mathrm {o}} \ \)と直流電流\( \ i_{\mathrm {d}} \ \)は図示する矢印の向きを正の方向として,次の(a)及び(b)の問に答えよ。
(a) 出力交流電圧の\( \ 1 \ \)周期に各パワートランジスタが\( \ 1 \ \)回オンオフする運転において,図2に示すように,パワートランジスタ\( \ \mathrm {S}_{1} \ \)~\( \ \mathrm {S}_{4} \ \)のオンオフ信号波形に対して,負荷電流\( \ i_{\mathrm {o}} \ \)の正しい波形が(ア)~(ウ),直流電流\( \ i_{\mathrm {d}} \ \)の正しい波形が(エ),(オ)のいずれかに示されている。その正しい波形の組合せを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
(1) (ア)と(エ) (2) (イ)と(エ) (3) (ウ)と(オ) (4) (ア)と(オ) (5) (イ)と(オ)
(b) 単相インバータの特徴に関する記述として,誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
(1) 図1は電圧形インバータであり,直流電源\( \ E \ \)の高周波インピーダンスが低いことが要求される。
(2) 交流出力の調整は,\( \ \mathrm {S}_{1} \ \)~\( \ \mathrm {S}_{4} \ \)に与えるオンオフ信号の幅\( \ \displaystyle \frac {T}{2} \ \)を短くすることによって交流周波数を高くすることができる。又は,\( \ E \ \)の直流電圧を高くすることによって交流電圧を高くすることができる。
(3) 図1に示されたパワートランジスタを,\( \ \mathrm {IGBT} \ \)又はパワー\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)に置換えてもインバータを実現できる。
(4) ダイオードが接続されているのは負荷のインダクタンスに蓄えられたエネルギーを直流電源に戻すためであり,さらにダイオードが導通することによって得られる逆電圧でパワートランジスタを転流させている。
(5) インダクタンスを含む負荷としては誘導電動機も駆動できる。運転中に負荷の力率が低くなると,電流がダイオードに流れる時間が長くなる。
【ワンポイント解説】
単相インバータの動作に関する問題です。
令和\( \ 4 \ \)年上期試験から\( \ 3 \ \)回連続で単相インバータに関する問題が出題されており,新たな傾向となっている可能性があります。
本問は平成24年問15からの再出題となります。
1.単相ブリッジインバータの動作
本問の単相ブリッジインバータの動作は以下の通りとなります。各素子の役割や電流の流れを理解していると様々な問題に対応できることになります。
①\( \ \mathrm {S_{1}} \ \)及び\( \ \mathrm {S_{4}} \ \)が\( \ \mathrm {ON} \ \)になり十分に時間が経過した後
図1-1に示すように\( \ E \ \)→\( \ \mathrm {S_{1}} \ \)→負荷→\( \ \mathrm {S_{4}} \ \)→\( \ E \ \)と導通します。
図1-1より出力端子の電圧は\( \ v_{\mathrm {o}}=E \ \)となり,出力電流\( \ i_{\mathrm {o}}>0 \ \)でリアクトル\( \ L \ \)にエネルギーが蓄えられます。
②\( \ \mathrm {S_{2}} \ \)及び\( \ \mathrm {S_{3}} \ \)が\( \ \mathrm {ON} \ \)になった直後
リアクトル\( \ L \ \)が電流\( \ i_{\mathrm {o}}>0 \ \)を維持しようとするので,リアクトル\( \ L \ \)に蓄えられているエネルギーが放出し,図1-2に示すように負荷→\( \ \mathrm {S_{3}} \ \)に接続されているダイオード→\( \ E \ \)→\( \ \mathrm {S_{2}} \ \)に接続されているダイオード→負荷と導通します。
図1-2より出力端子の電圧は\( \ v_{\mathrm {o}}=-E \ \)となり,出力電流\( \ i_{\mathrm {o}}>0 \ \)でリアクトル\( \ L \ \)のエネルギーが放出されます。
③\( \ \mathrm {S_{2}} \ \)及び\( \ \mathrm {S_{3}} \ \)が\( \ \mathrm {ON} \ \)になり十分に時間が経過した後
リアクトル\( \ L \ \)のエネルギーがなくなり,図1-3に示すように\( \ E \ \)→\( \ \mathrm {S_{3}} \ \)→負荷→\( \ \mathrm {S_{2}} \ \)→\( \ E \ \)と導通します。
図1-3より出力端子の電圧は\( \ v_{\mathrm {o}}=-E \ \)となり,出力電流\( \ i_{\mathrm {o}}<0 \ \)でリアクトル\( \ L \ \)にエネルギーが蓄えられます。
④\( \ \mathrm {S_{1}} \ \)及び\( \ \mathrm {S_{4}} \ \)が\( \ \mathrm {ON} \ \)になった直後
リアクトル\( \ L \ \)が電流\( \ i_{\mathrm {o}}<0 \ \)を維持しようとするので,リアクトル\( \ L \ \)に蓄えられているエネルギーが放出し,図1-4に示すように負荷→\( \ \mathrm {S_{1}} \ \)に接続されているダイオード→\( \ E \ \)→\( \ \mathrm {S_{4}} \ \)に接続されているダイオード→負荷と導通します。
図1-4より出力端子の電圧は\( \ v_{\mathrm {o}}=E \ \)となり,出力電流\( \ i_{\mathrm {o}}<0 \ \)でリアクトル\( \ L \ \)のエネルギーが放出されます。
以降①~④を繰り返します。
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【解答】
(a)解答:(1)
ワンポイント解説「1.単相ブリッジインバータの動作」の通り,\( \ \mathrm {S_{1}} \ \)と\( \ \mathrm {S_{4}} \ \)が\( \ \mathrm {ON} \ \)となった直後は\( \ i_{\mathrm {o}}<0 \ \)で\( \ i_{\mathrm {d}}<0 \ \),\( \ \mathrm {S_{1}} \ \)と\( \ \mathrm {S_{4}} \ \)が\( \ \mathrm {ON} \ \)になり十分時間が経過した後は\( \ i_{\mathrm {o}}>0 \ \)で\( \ i_{\mathrm {d}}>0 \ \),\( \ \mathrm {S_{2}} \ \)と\( \ \mathrm {S_{3}} \ \)が\( \ \mathrm {ON} \ \)となった直後は\( \ i_{\mathrm {o}}>0 \ \)で\( \ i_{\mathrm {d}}<0 \ \),\( \ \mathrm {S_{2}} \ \)と\( \ \mathrm {S_{3}} \ \)が\( \ \mathrm {ON} \ \)になり十分時間が経過した後は\( \ i_{\mathrm {o}}<0 \ \)で\( \ i_{\mathrm {d}}>0 \ \)となる。
したがって,以上を満たす負荷電流\( \ i_{\mathrm {o}} \ \)の波形は(ア),直流電流\( \ i_{\mathrm {d}} \ \)の波形は(エ)となる。
(b)解答:(4)
(1)正しい
図1は電源の電圧をそのまま出力にし,電圧を一定にしようとする働きがあるので,電圧形インバータであり,直流電源\( \ E \ \)の高周波インピーダンスが低く,安定した電圧を出力することが要求されます。
(2)正しい
\( \ \mathrm {S}_{1} \ \)~\( \ \mathrm {S}_{4} \ \)に与えるオンオフ信号の幅\( \ \displaystyle \frac {T}{2} \ \)を短くすることで(ア)と(エ)の波形の周期が短くなり,周波数を上げることができます。また,直流電源\( \ E \ \)を大きくすれば,波形の振幅も大きくなります。
(3)正しい
素子はパワートランジスタに限定することなく,オンオフ制御可能な素子であればインバータを実現できます。
(4)誤り
ダイオードが接続されているのは,エネルギーを直流電源に戻すためであると同時に,オンオフ切換の際に発生する電圧により,パワートランジスタが破損しないようにするためです。
(5)正しい
誘導電動機の等価回路からも明らかな通り,誘導電動機も抵抗とコイルを組み合わせた負荷となります。図1-1~図1-4の通り,力率が悪くなるすなわちインダクタンスの値が大きくなると,蓄えられるエネルギーが大きくなるため,電流がダイオードに流れる時間が長くなります。