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【問題】
【難易度】★★★★☆(やや難しい)
図1のように,トランジスタを用いた変成器結合電力増幅回路の基本回路がある。次の(a)及び(b)に答えよ。
ただし,\( \ I_{B} \ \mathrm {[\mu A]} \ \),\( \ I_{C} \ \mathrm {[mA]} \ \)は,ベースとコレクタの直流電流を示し,\( \ i_{b} \ \mathrm {[\mu A]} \ \),\( \ i_{c} \ \mathrm {[mA]} \ \)はそれぞれの信号分を示す。また,\( \ V_{BE} \ \mathrm {[V]} \ \)はベースとエミッタ間の直流電圧を示し,\( \ V_{CE} \ \)はコレクタとエミッタ間の直流電圧を示す。\( \ V_{BB} \ \mathrm {[V]} \ \)はバイアス電源の直流電圧,\( \ V_{CC} \ \mathrm {[V]} \ \)は直流電源電圧,\( \ V_{i} \ \mathrm {[V]} \ \)は信号電圧を示す。また,\( \ R_{L} \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)は負荷抵抗\( \ R_{S} \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)を変成器の一次側からみた場合の等価負荷抵抗を示す。

(a) 図1のトランジスタの\( \ V_{BE} – I_{B} \ \)特性を図2に示す。図2中の①,②及び③で示す点はトランジスタの動作点であり,これらに関する記述として,誤っているのは次のうちどれか。

(1) 出力波形のひずみが最も大きいのは,①である。
(2) プッシュプル電力増幅回路に使われるのは,通常②である。
(3) 電源効率が最も良いのは,②である。
(4) ①での動作は,③の動作よりトランジスタ回路の発熱が少ない。
(5) 出力波形のひずみが最も小さいのは,③である。
(b) 図1の基本回路が\( \ \mathrm {A} \ \)級電力増幅器として動作している場合のトランジスタの\( \ V_{CE} \ – I_{C} \ \)特性例を図3に示す。なお,太線は交流負荷線及び直流負荷線を,点\( \ \mathrm {P} \ \)はトランジスタの最適な動作点を示す。
この場合,負荷抵抗\( \ R_{S} \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)に供給される最大出力電力\( \ P_{om} \ \mathrm {[mW]} \ \)の値と変成器の巻数比\( \ n \ \)の値として,最も近いものを組み合わせたのは次のうちどれか。
ただし,負荷抵抗\( \ R_{S}=8 \ \mathrm {[\Omega ]} \ \),電源電圧\( \ V_{CC}=6 \ \mathrm {[V]} \ \)とする。また,変成器の巻線抵抗及びトランジスタの遮断領域や飽和領域による特性の誤差は無視できるものとする。
\[
\begin{array}{ccc}
& P_{om} \ \mathrm {[mW]} & n \\
\hline
(1) & 23 & 10 \\
\hline
(2) & 23 & 16 \\
\hline
(3) & 30 & 10 \\
\hline
(4) & 30 & 16 \\
\hline
(5) & 45 & 16 \\
\hline
\end{array}
\]
【ワンポイント解説】
トランジスタを用いた変成器結合電力増幅回路の特徴と回路演算を行う問題です。
大学等で電子回路をしっかりと学習されている方以外はほぼ未習の問題かと思います。学習難易度自体は特別高いわけではありませんが,出題されても選択問題なので,時間効率を考えると学習範囲外としても良い内容でしょう。
1.トランジスタの動作点の違いによる増幅回路の違い
ベースーエミッタ間電圧を\( \ V_{\mathrm {BE}} \ \mathrm {[V]} \ \),ベース電流を\( \ I_{\mathrm {B}} \ \mathrm {[\mu A]} \ \)としたときのトランジスタの\( \ V_{\mathrm {BE}} – I_{\mathrm {B}} \ \)特性は図4-1~4-3に示すような非線形特性であり,\( \ I_{\mathrm {B}} \ \mathrm {[\mu A]} \ \)が増幅され出力されるのでその出力特性の違いにより,以下のような3つの動作点に分類されます。
①\( \ \mathrm {A} \ \)級増幅回路
図4-1に示すように\( \ V_{\mathrm {BE}} \ \)と\( \ I_{\mathrm {B}} \ \)がほぼ直線的である領域を動作点として信号増幅を行います。
出力波形のひずみが非常に少ないのが特徴で,高品質の出力を得ることができます。
直流電圧を比例領域まで加えているため,消費電力が大きくなり電源効率が悪くなります。

②\( \ \mathrm {B} \ \)級増幅回路
図4-2に示すように\( \ I_{\mathrm {B}} \ \)が立ち上がる部分を動作点として信号増幅を行います。
半周期分しか出力されないので,一般に逆の特性を持つトランジスタ(\( \ \mathrm {npn} \ \)形と\( \ \mathrm {pnp} \ \)形)を組み合わせたプッシュプル方式を使用します。
立ち上がり部の比例領域ではない部分も使用するため,\( \ \mathrm {A} \ \)級増幅回路より出力波形のひずみが大きくなりますが,消費電力はそれほど大きくないため電源効率は比較的良いです。

③\( \ \mathrm {C} \ \)級増幅回路
図4-3に示すように,直流電圧に負のバイアスを加えた点を動作点として信号増幅を行います。
\( \ \mathrm {B} \ \)級増幅以上に出力波形のひずみは大きくなりますが,最小限の電力しか消費しないため電源効率は最も良くなります。この特性を利用して高調波を得るために利用することもできます。

全体として,電源効率が良いものほどひずみが大きくなると理解しておけば大丈夫です。
2.変圧器の巻数比と変圧比,変流比,インピーダンス比の関係
変圧器の一次側の巻数\( \ N_{1} \ \),電圧\( \ V_{1} \ \mathrm {[V]} \ \),電流\( \ I_{1} \ \mathrm {[A]} \ \),二次側の巻数\( \ N_{2} \ \),電圧\( \ V_{2} \ \mathrm {[V]} \ \),電流\( \ I_{2} \ \mathrm {[A]} \ \)とすると,巻数比\( \ \displaystyle a=\frac {N_{1}}{N_{2}} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
a&=&\frac {N_{1}}{N_{2}} =\frac {V_{1}}{V_{2}}=\frac {I_{2}}{I_{1}} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
となります。\( \ \displaystyle \frac {V_{1}}{V_{2}} \ \)を変圧比,\( \ \displaystyle \frac {I_{1}}{I_{2}} \ \)を変流比といいます。
また,一次側のインピーダンスを\( \ Z_{1} \ \mathrm {[\Omega ]} \ \),二次側のインピーダンスを\( \ Z_{2} \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)とすると,インピーダンス比\( \ \displaystyle \frac {Z_{1}}{Z_{2}} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
\frac {Z_{1}}{Z_{2}}&=&\frac {\displaystyle \frac {V_{1}}{I_{1}}}{\displaystyle \frac {V_{2}}{I_{2}}} \\[ 5pt ]
&=&\frac {\displaystyle \frac {V_{1}}{V_{2}}}{\displaystyle \frac {I_{1}}{I_{2}}} \\[ 5pt ]
&=&\frac {a}{\displaystyle \frac {1}{a}} \\[ 5pt ]
&=&a^{2} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
となります。
【解答】
(a)解答:(3)
(1):正しい
ワンポイント解説「1.トランジスタの動作点の違いによる増幅回路の違い」の通り,出力波形のひずみが最も大きいのは①の\( \ \mathrm {C} \ \)級増幅となります。
(2):正しい
ワンポイント解説「1.トランジスタの動作点の違いによる増幅回路の違い」の通り,プッシュプル電力増幅回路に使われるのは②の\( \ \mathrm {B} \ \)級増幅です。
(3):誤り
ワンポイント解説「1.トランジスタの動作点の違いによる増幅回路の違い」の通り,電源効率が最も良いのは①の\( \ \color {red}{\underline {\mathrm {C}}} \ \)級増幅となります。
(4):正しい
ワンポイント解説「1.トランジスタの動作点の違いによる増幅回路の違い」の通り,①での動作は,③の動作よりトランジスタ回路の発熱が少ない特徴があります。
(5):正しい
ワンポイント解説「1.トランジスタの動作点の違いによる増幅回路の違い」の通り,出力波形のひずみが最も小さいのは③の\( \ \mathrm {A} \ \)級増幅となります。
(b)解答:(1)
変成器の二次側には直流分は現れず,変成器での損失はないので,図3の最大振幅時の交流分の\( \ V_{CE} \ \mathrm {[V]} \ \)と\( \ I_{C} \ \mathrm {[mA]} \ \)の積が最大出力電力\( \ P_{om} \ \mathrm {[mW]} \ \)となる。
最大振幅時の\( \ V_{CE} \ \)の振幅が\( \ 6 \ \mathrm {[V]} \ \),\( \ I_{C} \ \)の振幅が\( \ 7.5 \ \mathrm {[mA]} \ \)なので,最大出力電力\( \ P_{om} \ \mathrm {[mW]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
P_{om} &=&\frac {6}{\sqrt {2}}\times \frac {7.5\times 10^{-3}}{\sqrt {2}} \\[ 5pt ]
&=&22.5\times 10^{-3} \ \mathrm {[W]} → 22.5 \ \mathrm {[mW]} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
と求められる。
変流器二次側の電圧を\( \ V_{S} \ \mathrm {[V]} \ \)とすると,
\[
\begin{eqnarray}
P_{om} &=&\frac {{V_{S}}^{2}}{R_{S}} \\[ 5pt ]
{V_{S}}^{2}&=&P_{om}R_{S} \\[ 5pt ]
V_{S}&=&\sqrt {P_{om}R_{S}} \\[ 5pt ]
&=&\sqrt {22.5\times 10^{-3} \times 8} \\[ 5pt ]
&≒&0.424 \ 26 \ \mathrm {[V]} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
となるので,巻数比\( \ n \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
n &=&\frac {\displaystyle \frac {6}{\sqrt {2}}}{0.424 \ 26} \\[ 5pt ]
&≒&10.0 \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
と求められる。
