《電力》〈送電〉[H23:問6]架空送配電線路の誘導障害に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

架空送配電線路の誘導障害に関する記述として,誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

(1) 誘導障害には,静電誘導障害と電磁誘導障害とがある。前者は電力線と通信線や作業者などとの間の静電容量を介しての結合に起因し,後者は主として電力線側の電流計路と通信線や他の構造物との間の相互インダクタンスを介しての結合に起因する。

(2) 平常時の三相\( \ 3 \ \)線式送配電線路では,ねん架が十分に行われ,かつ,各電力線と通信線路や作業者などとの距離がほぼ等しければ,誘導障害はほとんど問題にならない。しかし,電力線のねん架が十分でも,一線地絡故障を生じた場合には,通信線や作業者などに静電誘導電圧や電磁誘導電圧が生じて障害の原因となることがある。

(3) 電力系統の中性点接地抵抗を高くすること及び故障電流を迅速に遮断することは,ともに電磁誘導障害防止策として有効な方策である。

(4) 電力線と通信線の間に導電率の大きい地線を布設することは,電磁誘導障害対策として有効であるが,静電誘導障害に対してはその効果を期待することはできない。

(5) 通信線の同軸ケーブルや光ファイバ化は,静電誘導障害に対しても電磁誘導障害に対しても有効な対策である。

【ワンポイント解説】

誘導障害に関する問題です。
誘導障害は\( \ 2 \ \)種の二次試験ではよく出題される印象がありますが,\( \ 3 \ \)種では数年に\( \ 1 \ \)回程度出題される印象です。
メカニズム自体が出題されることは稀とは思いますが,知っておいた方が理屈を理解できるため忘れにくくなり,丸暗記するよりも結果的に近道になるかと思います。

1.静電誘導障害
送電線と通信線間の相互静電容量と通信線と大地間の対地静電容量により,送電線の電圧が分圧されるため発生します。
定量的には,図1の示すように各部電圧と静電容量を定めると,送電線から通信線へ流れる電流の合計は,通信線から大地へ流れる電流と等しいので,
\[
\begin{eqnarray}
\mathrm {j}\omega C_{\mathrm {a}} \left( {\dot E}_{\mathrm {a}}-{\dot E}_{0}\right) +\mathrm {j}\omega C_{\mathrm {b}} \left( {\dot E}_{\mathrm {b}}-{\dot E}_{0}\right) +\mathrm {j}\omega C_{\mathrm {c}} \left( {\dot E}_{\mathrm {c}}-{\dot E}_{0}\right) &=&\mathrm {j}\omega C_{0}{\dot E}_{0} \\[ 5pt ] C_{\mathrm {a}}{\dot E}_{\mathrm {a}}- C_{\mathrm {a}}{\dot E}_{0}+C_{\mathrm {b}}{\dot E}_{\mathrm {b}} -C_{\mathrm {b}}{\dot E}_{0}+C_{\mathrm {c}} {\dot E}_{\mathrm {c}}-C_{\mathrm {c}} {\dot E}_{0} &=& C_{0}{\dot E}_{0} \\[ 5pt ] \left( C_{\mathrm {a}}+C_{\mathrm {b}}+C_{\mathrm {c}}+C_{0}\right) {\dot E}_{0}&=&C_{\mathrm {a}}{\dot E}_{\mathrm {a}}+C_{\mathrm {b}}{\dot E}_{\mathrm {b}}+C_{\mathrm {c}} {\dot E}_{\mathrm {c}} \\[ 5pt ] {\dot E}_{0}&=&\frac {C_{\mathrm {a}} {\dot E}_{\mathrm {a}}+C_{\mathrm {b}} {\dot E}_{\mathrm {b}}+C_{\mathrm {c}} {\dot E}_{\mathrm {c}}}{C_{\mathrm {a}}+C_{\mathrm {b}}+C_{\mathrm {c}}+C_{0}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。ここで,三相平衡でよくねん架された送電線であれば,静電容量は等しくなり,\( \ {\dot E}_{0}≒0 \ \)となります。

2.電磁誘導障害
送電線と通信線との相互インダクタンスと送電線に流れる各電流の電磁誘導により誘導電圧が発生します。
定量的には,図2のように各電流と相互インダクタンス\( \ M \ \)と並行区間長\( \ L \ \)を定めると,通信線に発生する電圧\( \ {\dot V}_{0} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
{\dot V}_{0}&=&\mathrm {j}\omega ML {\dot I}_{\mathrm {a}}+\mathrm {j}\omega ML {\dot I}_{\mathrm {b}}+\mathrm {j}\omega ML {\dot I}_{\mathrm {c}} \\[ 5pt ] &=&\mathrm {j}\omega ML \left( {\dot I}_{\mathrm {a}}+{\dot I}_{\mathrm {b}}+{\dot I}_{\mathrm {c}} \right)
\end{eqnarray}
\] となります。通常運転時,三相平衡であれば\( \ {\dot I}_{\mathrm {a}}+{\dot I}_{\mathrm {b}}+{\dot I}_{\mathrm {c}} ≒0 \ \)であるので,\( \ {\dot V}_{0}≒0 \ \)となります。

3.誘導障害への対策
静電誘導障害及び電磁誘導障害に共通する対策としては以下の方法があります。
 ・送電線をねん架する。
 ・送電線と通信線の離隔距離を大きくする。
 ・送電線と通信線の間に遮へい線を設置する。
 ・通信線に遮へい層のあるケーブルを採用する。
 ・通信線に光ファイバケーブルを採用する。
また,電磁誘導障害は電流に起因する障害なので,事故による三相不平衡の電流に対する対策として,以下の方法も有効となります。
 ・中性点抵抗接地方式の抵抗値を大きくする。
 ・中性点接地方式に消弧リアクトル接地方式を採用する。
 ・送電系統の保護継電方式に高速遮断方式を採用する。

【解答】

解答:(4)
(1)正しい
ワンポイント解説「1.静電誘導障害」及び「2.電磁誘導障害」の通り,静電誘導障害は相互静電容量と通信線と大地間の対地静電容量により電圧が分圧されることによって発生し,電磁誘導障害は送電線と通信線や他の構造物との相互インダクタンスにより送電線を流れる電流での電磁誘導により発生する障害となります。

(2)正しい
問題文の通り,送電線がねん架されていれば通常時は誘導障害は問題ありませんが,事故時には三相不平衡が発生するため誘導障害が発生する可能性があります。

(3)正しい
ワンポイント解説「3.誘導障害への対策」の通り,中性点接地抵抗を高くすること及び故障電流を迅速に遮断することは,いずれも電磁誘導障害の対策として有効となります

(4)誤り
ワンポイント解説「3.誘導障害への対策」の通り,電力線と通信線の間に導電率の大きい地線を布設することは,電磁誘導障害対策としても静電誘導障害対策としても有効となります。

(5)正しい
ワンポイント解説「3.誘導障害への対策」の通り,外部導体を含む同軸ケーブル化や電気磁気的な影響を受けない光ファイバ化は電磁誘導障害対策としても静電誘導障害対策としても有効となります。