《機械》〈回転機〉[H22:問3]三相誘導機の回転原理と特性に関する空欄穴埋問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

次の文章は,三相の誘導機に関する記述である。

固定子の励磁電流による同期速度の\( \ \fbox {  (ア)  } \ \)と回転子との速度の差(相対速度)によって回転子に電圧が発生し,その電圧によって回転子に電流が流れる。トルクは回転子の電流と磁束とで発生するので,トルク特性を制御するため,巻線形誘導機では回転子巻線の回路をブラシと\( \ \fbox {  (イ)  } \ \)で外部に引き出して二次抵抗値を調整する方式が用いられる。回転子の回転速度が停止(滑り\( \ s=1 \ \))から同期速度(滑り\( \ s=0 \ \))の間,すなわち, \( \ 1>s>0 \ \)の運転状態では,磁束を介して回転子の回転方向にトルクが発生するので誘導機は\( \ \fbox {  (ウ)  } \ \)となる。

回転子の速度が同期速度より高速の場合,磁束を介して回転子の回転方向とは逆の方向にトルクが発生し,誘導機は\( \ \fbox {  (エ)  } \ \)となる。

上記の記述中の空白箇所(ア),(イ),(ウ)及び(エ)に当てはまる語句として,正しいものを組み合わせたのは次のうちどれか。
\[
\begin{array}{ccccc}
& (ア) & (イ) & (ウ) & (エ) \\
\hline
(1) &  交番磁界  &  スリップリング  &  電動機  &  発電機  \\
\hline
(2) &  回転磁界  &  スリップリング  &  電動機  &  発電機  \\
\hline
(3) &  交番磁界  &  整流子  &  発電機  &  電動機  \\
\hline
(4) &  回転磁界  &  スリップリング  &  発電機  &  電動機  \\
\hline
(5) &  交番磁界  &  整流子  &  電動機  &  発電機  \\
\hline
\end{array}
\]

【ワンポイント解説】

三相誘導機の固定子に発生する磁界や電動機,発電機として運転する違い等の総合的な知識を問う問題です。
単相誘導電動機の発生する交番磁界に関しては令和3年問4に出題されていますので,確認してみて下さい。

1.三相誘導電動機の回転原理
図1に示すように,\( \ 120° \ \)ずつずらして三つの巻線を配置して,三相交流を流します。
時刻\( \ t_{\mathrm {1}} \ \)においては,\( \ \mathrm {U} \ \)相のみ正,\( \ \mathrm {V} \ \)相と\( \ \mathrm {W} \ \)相が負なので,各巻線の電流の向きは(a)のようになり,これにより発生する磁界は右ねじの法則から図の右側から左側に向かって発生します。
その後\( \ t_{\mathrm {1}} \ → \ t_{\mathrm {2}} \ →\cdots → \ t_{\mathrm {6}} \ \)と徐々に変化していくと,合成磁界も回転していくことがわかります。これにより,回転磁界が生まれ,回転磁界により回転子がそれについていく形で移動することになります。このときの回転磁界の回転速度を同期速度といいます。

2.三相誘導電動機の回転子
①かご形
かごの形をした導体中に,透磁率の高い鉄心を入れ,両端を端絡環で接続したものです。
構造が簡単で,頑丈かつコンパクトである特徴があります。


出典:みんなが欲しかった!電験三種 機械の実践問題集P.65 TAC出版

②巻線形
鉄心の外側のスロットに二次巻線を挿入した構造の回転子です。
二次巻線はスリップリングを介して外部の抵抗に接続できるという特徴があります。


出典:みんなが欲しかった!電験三種 機械の実践問題集P.65 TAC出版

3.誘導機の滑り\( \ s \ \)
誘導機の同期速度が\( \ N_{\mathrm {s}} \ \),回転速度が\( \ N \ \)である時,誘導機の滑り\( \ s \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
s &=&\frac {N_{\mathrm {s}}-N}{N_{\mathrm {s}}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と定義されるので,\( \ N \ \)について整理すると,
\[
\begin{eqnarray}
s N_{\mathrm {s}}&=&N_{\mathrm {s}}-N \\[ 5pt ] N&=&\left( 1-s\right) N_{\mathrm {s}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

4.滑りの違いよる電動機の動作の違い
①\( \ s<0 \ \)のとき
\( \ N>N_{\mathrm {s}} \ \)となるので,同期速度\( \ N_{\mathrm {s}} \ \)よりも回転速度\( \ N \ \)が高い状態で,どちらも同方向に回転している状態です。このとき,誘導機は誘導発電機として働き,回生制動となり電源側に電力が返還されます。

②\( \ 0<s<1 \ \)のとき
\( \ N<N_{\mathrm {s}} \ \)となるので,同期速度\( \ N_{\mathrm {s}} \ \)よりも回転速度\( \ N \ \)が低い状態で,どちらも同方向に回転している状態です。このとき,誘導機は誘導電動機として働き,電源から電力が供給されます。

③\( \ s>1 \ \)のとき
回転速度\( \ N \ \)に対し同期速度\( \ N_{\mathrm {s}} \ \)が逆向きに回転している状態で,このとき逆向きに大きなトルクがかかります。このとき,誘導機は誘導ブレーキとして働き,入力は熱として消費されます。回生制動より大きなトルクがかかるので,急ブレーキとして使用します。

【解答】

解答:(2)
(ア)
ワンポイント解説「1.三相誘導電動機の回転原理」の通り,固定子の励磁電流による同期速度で回転する磁界を回転磁界といいます。

(イ)
ワンポイント解説「2.三相誘導電動機の回転子」の通り,巻線形誘導機ではスリップリングを介して二次抵抗値を調整することでトルク特性を制御します。

(ウ)
ワンポイント解説「4.滑りの違いよる電動機の動作の違い」の通り,\( \ 1>s>0 \ \)の運転状態は電動機となります。

(エ)
ワンポイント解説「4.滑りの違いよる電動機の動作の違い」の通り,回転子の速度が同期速度より高速の場合は発電機となります。