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【問題】
【難易度】★★☆☆☆(やや易しい)
次の文章は,電気機器の損失に関する記述である。
a コイルの電流とコイルの抵抗によるジュール熱が\( \ \fbox { (ア) } \ \)であり,この損失を低減するため,コイルを構成する電線の断面積を大きくする。
交流電流が並列コイルに分かれて流れると,並列コイル間の電流不平衡からこの損失が増加する。この損失を低減するため,並列回路を構成する各コイルの鎖交磁束と抵抗値,すなわち,各コイルのインピーダンスを等しくする。
b 鉄心に交流磁束が通ると損失が発生する。その成分は\( \ \fbox { (イ) } \ \)と\( \ \fbox { (ウ) } \ \)の二つに分類される。前者は,交流磁束によって誘導された電流が鉄心を流れてジュール熱として発生する。そこで,電気抵抗が高い強磁性材料や,表面を絶縁膜で覆った薄い鉄板を積層した積層鉄心を磁気回路に用いて,電流の経路を断つことで損失を低減する。後者は,鉄心の磁束が磁界の履歴に依存するために発生する。この\( \ \fbox { (ウ) } \ \)を低減するために電磁鋼板が磁気回路に広く用いられている。
c 上記の電磁気要因の損失のほか,電動機や発電機では,回転子の運動による軸受け摩擦損や冷却ファンの空気抵抗による損失などの\( \ \fbox { (エ) } \ \)がある。
上記の記述中の空白箇所(ア)~(エ)に当てはまる組合せとして,正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
\[
\begin{array}{ccccc}
& (ア) & (イ) & (ウ) & (エ) \\
\hline
(1) & 銅損 & 渦電流損 & ヒステリシス損 & 機械損 \\
\hline
(2) & 鉄損 & 抵抗損 & ヒステリシス損 & 銅損 \\
\hline
(3) & 銅損 & 渦電流損 & インダクタンス損 & 機械損 \\
\hline
(4) & 鉄損 & 機械損 & ヒステリシス損 & 銅損 \\
\hline
(5) & 銅損 & 抵抗損 & インダクタンス損 & 機械損 \\
\hline
\end{array}
\]
【ワンポイント解説】
回転機や変圧器等に発生する損失に関する問題です。
cの文章は電動機や発電機に関する記述ですが,内容としてはほぼ変圧器の分野で扱う内容かと思います。
本問は令和元年問7からの再出題となります。
1.変圧器の損失
1.無負荷損(鉄損)
1-1.ヒステリシス損\( \ W_{\mathrm {h}} \ \)
交番磁界によって磁性体の磁区の向きが変化します。これに伴って発生する損失をヒステリシス損と言い,以下の式で求められます。
\[
\begin{eqnarray}
W_{\mathrm {h}} &≒& K_{\mathrm {h}}fB_{\mathrm {m}}^{2} \\[ 5pt ]
&=& K_{\mathrm {h}}^{\prime }\frac {V^{2}}{f} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
\[
\begin{eqnarray}
&&K_{\mathrm {h}},K_{\mathrm {h}}^{\prime }:比例定数, f:周波数 \\[ 5pt ]
&&B_{\mathrm {m}}:最大磁束密度,V:電源電圧 \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
したがって,\( \ B_{\mathrm {m}} \ \)一定の時\( \ W_{\mathrm {h}} \ \)は\( \ f \ \)に比例し,\( \ V \ \)一定の時\( \ W_{\mathrm {h}} \ \)は\( \ f \ \)に反比例します。
1-2.渦電流損\( \ W_{\mathrm {e}} \ \)
鉄心内で交番磁界の磁束変化が起きると鉄心内に起電力が生じ渦電流が生じます。これに伴って発生する損失を渦電流損と言い,以下の式で求められます。
\[
\begin{eqnarray}
W_{\mathrm {e}} &≒& K_{\mathrm {e}}\left( tfB_{\mathrm {m}}\right) ^{2} \\[ 5pt ]
&=& K_{\mathrm {e}}^{\prime }V^{2} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
\[
\begin{eqnarray}
&&K_{\mathrm {e}},K_{\mathrm {e}}^{\prime }:比例定数, f:周波数 \\[ 5pt ]
&&B_{\mathrm {m}}:最大磁束密度,V:電源電圧,t:鉄板の厚さ \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
したがって,\( \ B_{\mathrm {m}} \ \)一定の時\( \ W_{\mathrm {h}} \ \)は\( \ f \ \)の\( \ 2 \ \)乗に比例し,\( \ V \ \)一定の時\( \ W_{\mathrm {h}} \ \)は\( \ f \ \)に関係なく一定となります。
2.負荷損
2-1.銅損\( \ W_{\mathrm {c}} \ \)
変圧器の一次巻線及び二次巻線にて生じる抵抗損で,負荷の\( \ 2 \ \)乗に比例して増加します。
2-2.漂遊負荷損\( \ W_{\mathrm {s}} \ \)
変圧器での漏れ磁束による損失で,銅損よりかなり小さい値のため,試験ではほぼ無視する場合が多いです。
【解答】
解答:(1)
(ア)
ワンポイント解説「1.変圧器の損失」の通り,コイルの電流とコイルの抵抗によるジュール熱すなわち抵抗損は銅損となります。
(イ)
鉄心で発生する損失のうち,「交流磁束によって誘導された電流が鉄心を流れてジュール熱として発生する」となっているので,ワンポイント解説「1.変圧器の損失」の通り,渦電流損となります。
(ウ)
鉄心で発生する損失のうち,「鉄心の磁束が磁界の履歴に依存するために発生する」損失なので,ワンポイント解説「1.変圧器の損失」の通り,ヒステリシス損となります。
(エ)
電動機や発電機等の回転体で発生する回転子の運動による軸受け摩擦損や冷却ファンの空気抵抗による機械的損失を機械損と呼びます。