《理論》〈電子理論〉[R04:問6]半導体の降伏電界と発生メカニズムに関する空欄穴埋問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

次の文章は,半導体の降伏電界に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。

半導体中の電子が,電界から力を受けて一定の平均速度\( \ v \ \)で運動している状況を考える。\( \ v \ \)が電界の大きさ\( \ F \ \)に比例するものとし,その比例定数を\( \ \mu \ \)とおくと\( \ v= \ \fbox {  (1)  } \ \)と表され,\( \ \mu \ \)を\( \ \fbox {  (2)  } \ \ \)と呼ぶ。速さ\( \ v \ \)で運動する電子の運動エネルギーは,電子の有効質量を\( \ m \ \)とすると,\( \ \fbox {  (3)  } \ \ \)と表される。電界\( \ F \ \)が大きくなると,\( \ \fbox {  (3)  } \ \ \)が半導体の禁制帯幅\( \ E_{\mathrm {g}} \ \ \)を超える状況が生じる。この際,運動する電子は衝突によって運動エネルギーを失う代わりに,価電子帯の電子を伝導帯に励起させることにより,電子正孔対が生じてキャリヤ濃度が増加する。新たに生成した電子も電界によって加速され,同様に次々と電子正孔対を生じることから指数関数的にキャリヤ濃度が増加し,電流が急激に増大する。半導体の破壊の原因ともなるこのような現象を\( \ \fbox {  (4)  } \ \ \)降伏と呼び,この現象が生じる目安となる電界の大きさ\( \ F \ \)を,\( \ \mu \ \),\( \ m \ \),\( \ E_{\mathrm {g}} \ \ \)などを用いて不等式で表すと\( \ F> \ \fbox {  (5)  } \ \)となる。

〔問6の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& ツェナー     &(ロ)& 拡散定数     &(ハ)& \frac {F}{\mu } \\[ 5pt ] &(ニ)& \mu F     &(ホ)& \frac {\mu }{F}     &(ヘ)& ミーゼス \\[ 5pt ] &(ト)& \frac {mv^{2}}{2}     &(チ)& 透磁率     &(リ)& アバランシェ \\[ 5pt ] &(ヌ)& \sqrt {\frac {E_{\mathrm {g}}}{\mu m}}       &(ル)& mv^{2}       &(ヲ)& 移動度 \\[ 5pt ] &(ワ)& mv     &(カ)& \frac {E_{\mathrm {g}}}{\mu m}     &(ヨ)& \frac {1}{\mu }\sqrt {\frac {2E_{\mathrm {g}}}{m}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

【ワンポイント解説】

半導体の降伏現象に関する問題です。
大学の電子工学を専攻されていた方であれば解ける問題かもしれませんが,(4)の空欄は電験のテキストではあまり記載のない用語です。
合格のためには(4)の空欄の知識ではなく,それ以外の空欄を落とさないことが重要となります。

1.キャリヤの移動度\( \ \mu \ \)
電界\( \ E \ \mathrm {[V / m]} \ \)が加わっている電界中に正孔や電子等のキャリヤがあるとすると,キャリヤは電界\( \ E \ \mathrm {[V / m]} \ \)に比例した速度で動きます。その時のキャリヤの速度\( \ v \ \mathrm {[m / s]} \ \)は,比例定数(移動度)を\( \ \mu \ \mathrm {[m^{2} / V\cdot s]} \ \)とすると,
\[
\begin{eqnarray}
v &=&\mu E \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] で求められます。

2.物体の運動エネルギー(力学)
質量\( \ m \ \mathrm {[kg]} \ \)の物体が,速度\( \ v \ \mathrm {[m/s]} \ \)で運動しているときの運動エネルギー\( \ K \ \mathrm {[J]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
K &=&\frac {1}{2}mv^{2} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

3.半導体の降伏現象
\( \ \mathrm {pn} \ \)接合した半導体は,基本的に順方向電圧をかけると電流が流れ,逆方向電圧をかけても電流はほとんど流れません。
しかしながら,ある一定以上の逆方向電圧をかけると以下の降伏現象が発生し,急激に電流が流れるようになります。

①アバランシェ降伏(なだれ降伏)
半導体中の電子が電界により加速され運動エネルギーを持った状態で原子に衝突し,新たな電子正孔対ができ,また生成された電子や正孔が加速されることで,繰り返し電子正孔対ができることで,指数関数的にキャリヤ濃度が増加し,電流が流れる現象です。

②ツェナー降伏
強い電界により新たな電子正孔対が生成され,空乏層の幅がそれほど大きくない場合に電子が空乏層の電位障壁をすり抜けるトンネル効果により発生する現象です。一般に半導体の不純物濃度が高い場合にはツェナー降伏の方が発生しやすくなります。

【解答】

(1)解答:ニ
題意より解答候補は,(ハ)\( \ \displaystyle \frac {F}{\mu } \ \),(ニ)\( \ \displaystyle \mu F \ \),(ホ)\( \ \displaystyle \frac {\mu }{F} \ \),になると思います。
ワンポイント解説「1.キャリヤの移動度\( \ \mu \ \)」の通り,\( \ v =\mu F \ \)で求められます。

(2)解答:ヲ
題意より解答候補は,(ロ)拡散定数,(チ)透磁率,(ヲ)移動度,になると思います。
ワンポイント解説「1.キャリヤの移動度\( \ \mu \ \)」の通り,\( \ \mu \ \)を移動度と呼びます。

(3)解答:ト
題意より解答候補は,(ト)\( \ \displaystyle \frac {mv^{2}}{2} \ \),(ル)\( \ \displaystyle mv^{2} \ \),(ワ)\( \ \displaystyle mv \ \),になると思います。
ワンポイント解説「2.物体の運動エネルギー(力学)」の通り,速さ\( \ v \ \)で運動する電子の運動エネルギーは,電子の有効質量を\( \ m \ \)とすると\( \ \displaystyle \frac {mv^{2}}{2} \ \)で求められます。

(4)解答:リ
題意より解答候補は,(イ)ツェナー,(ヘ)ミーゼス,(リ)アバランシェ,になると思います。
ワンポイント解説「3.半導体の降伏現象」の通り,問題文に沿う降伏現象はアバランシェ降伏と呼ばれます。

(5)解答:ヨ
(1)より電子の速度は\( \ v =\mu F \ \),(3)より運動エネルギーは\( \ \displaystyle \frac {mv^{2}}{2} \ \)であり,運動エネルギーが禁止帯幅\( \ E_{\mathrm {g}} \ \)を超えると降伏現象が発生するので,
\[
\begin{eqnarray}
E_{\mathrm {g}} &<&\frac {mv^{2}}{2} \\[ 5pt ] E_{\mathrm {g}} &<&\frac {m\mu ^{2}F^{2}}{2} \\[ 5pt ] F^{2} &>&\frac {2E_{\mathrm {g}}}{m\mu ^{2}} \\[ 5pt ] F &>&\frac {1}{\mu }\sqrt {\frac {2E_{\mathrm {g}}}{m}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。



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