《電力》〈水力〉[H23:問1]水力発電所の不具合原因箇所特定に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★★★(難しい)

図のような水路式水力発電所において,有効電力出力が定格状態から突然低下した。出力低下の原因箇所を見定めるために,出力低下後に安定した当該発電所の状態を確認すると,出力低下前と比較して,以下のような状態となっていた。

・水車上流側の上部水槽で水位が上昇した。
・水車流量が低下した。
・水車発電機の回転数は定格回転数である。
・発電機無効電力は零(\( \ 0 \ \))のまま変化していない。
・発電機電圧はほとんど変化していない。
・励磁電圧が低下した。
・保護リレーは動作していない。

出力低下の原因が発生した箇所の想定として,次の(1)~(5)のうちから最も適切なものを一つ選べ。

(1) 水位観測地点(上部水槽)より上流側水路

(2) 水車を含む水位観測地点(上部水槽)より下流側水路

(3) 電圧調整装置

(4) 励磁装置

(5) 発電機

【ワンポイント解説】

水力発電所の故障箇所特定に関する問題です。
運転をされたことがある方ならある程度わかるかもしれませんが,一般的な電験の学習では取り扱わないかなり特殊な問題と言えます。

1.水力発電所の出力\( \ P \ \)
水力発電所の使用水量\( \ Q \ \mathrm {[m^{3}/s]} \ \),有効落差\( \ H \ \mathrm {[m]} \ \),水車効率\( \ \eta _{\mathrm {w}} \ \),発電機効率\( \ \eta _{\mathrm {g}} \ \)とすると,発電機の出力\( \ P \ \mathrm {[kW]} \ \)は
\[
\begin{eqnarray}
P &=&9.8QH\eta _{\mathrm {w}}\eta _{\mathrm {g}} \ \mathrm {[kW]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] で求められます。

2.同期発電機の等価回路とベクトル図(機械科目)
発電機の誘導起電力を\( \ \dot E \ \),負荷の端子電圧を\( \ \dot V \ \),同期リアクタンスを\( \ x_{\mathrm {s}} \ \),電機子電流を\( \ \dot I \ \)とすると,同期発電機の等価回路は図1のように描くことができ,そのベクトル図は図2のようになります。


【解答】

解答:(2)
(1)誤り
ワンポイント解説「1.水力発電所の出力\( \ P \ \)」の通り,出力が低下した場合流量低下が可能性として考えられますが,水位観測地点(上部水槽)より上流側水路でつまり等による流量低下が発生しても水位観測地点(上部水槽)より下流側の水量(水車流量)は維持できるので,出力が低下しません。また,その場合,上部水槽の水位は低下することになります。

(2)正しい
水車流量が低下しているので,水車を含む水位観測地点(上部水槽)より下流側水路のつまりや大きな漏れ等による流量低下が予想されますが,上部水槽の水位が上昇しているので,つまりが発生している可能性が高いです。

(3)誤り
電圧調整装置は発電機電圧を一定に保つための装置ですが,発電機電圧はほとんど変化していないので,自動電圧調整装置は正常に働いていると考えられます。

(4)誤り
力率が\( \ 1 \ \)なので,ワンポイント解説「2.同期発電機の等価回路とベクトル図(機械科目)」の通りベクトル図を描くと図3のようになります。
力率が\( \ 1 \ \)のとき,発電機出力\( \ P \ \)は端子電圧\( \ V \ \)と電機子電流\( \ I \ \)を用いて,
\[
\begin{eqnarray}
P &=&\sqrt {3}VI \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] であるので,端子電圧\( \ V \ \)が一定であるため,出力\( \ P \ \)が低下すると電機子電流\( \ I \ \)も比例して低下します。
そのため図3の同期リアクタンス\( \ x_{\mathrm {s}} \ \)での電圧降下\( \ \mathrm {j}x_{\mathrm {s}}I \ \)も低下するため,誘導起電力\( \ E \ \)が低下します。
誘導起電力\( \ E \ \)が低下していることから,これを調整する励磁電圧が低下するのは正常動作であり,励磁装置には異常がないことがわかります。

(5)誤り
発電機に異常が発生した場合,一般に保護リレーが働くため可能性は低いと考えられます。
また,地絡事故等が発生した場合は無効電力に大きな変化が発生すると予想されます。