《電力》〈変電〉[H23:問8]受変電設備や送配電設備に設置されるリアクトルに関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

受変電設備や送配電設備に設置されるリアクトルに関する記述として,誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

(1) 分路リアクトルは,電力系統から遅れ無効電力を吸収し,系統の電圧調整を行うために設置される。母線や変圧器の二次側・三次側に接続し,負荷変動に応じて投入したり切り離したりして使用される。

(2) 限流リアクトルは,系統故障時の故障電流を抑制するために用いられる。保護すべき機器と直列に接続する。

(3) 電力用コンデンサに用いられる直列リアクトルは,コンデンサ回路投入時の突入電流を抑制し,コンデンサによる高調波障害の拡大を防ぐことで,電圧波形のひずみを改善するために設ける。コンデンサと直列に接続し,回路に並列に設置する。

(4) 消弧リアクトルは,三相電力系統において送電線路にアーク地絡を生じた場合,進相電流を補償し,アークを消滅させ,送電を継続するために用いられる。三相変圧器の中性点と大地間に接続する。

(5) 補償リアクトル接地方式は,\( \ 66 \ \mathrm {kV} \ \)から\( \ 154 \ \mathrm {kV} \ \)の架空送電線において,対地静電容量によって発生する地絡故障時の充電電流による通信機器への影響を抑制するために用いられる。中性点接地抵抗器と直列に補償リアクトルを接続する。

【ワンポイント解説】

電力系統に使用されるリアクトルについて横断的に出題している問題です。
それぞれバラバラに覚えていた知識を整理するという意味では良い問題かと思いますが,あまり\( \ 3 \ \)種では取り扱わない内容も含まれているため,難易度は難しめとなるかと思います。

1.調相設備の種類
代表的な無効電力の調相設備には次の4種類があり,それぞれ下表のような特徴があります。
\[
\begin{array}{|c|c|c|c|c|}
\hline
& 電力用コンデンサ & 分路リアクトル & 同期調相機 & 静止形無効電力補償装置\\
& & & & \mathrm {SVC}\\
\hline
調整能力 & \displaystyle {進相電力を吸収}\atop \displaystyle {(電流を進ませる)} & \displaystyle {遅相電力を吸収}\atop \displaystyle {(電流を遅らせる)} & 遅れから進みまで調整 & 遅れから進みまで調整 \\
\hline
調整 & 段階的 & 段階的 & 連続的 & 連続的 \\
\hline
コスト & 安 & 安 & 高 & 高 \\
\hline
保守性 & 容易 & 容易 & 頻雑 & 容易 \\
\hline
\end{array}
\]

2.各中性点接地方式の特徴
中性点接地方式は下表のように4種類あり,電圧階級によって最適な接地方法を選択します。電圧が大きいほど健全相の対地電圧上昇の影響が大きくなることから電圧上昇対策を優先する形となっています。

\[
\begin{array}{|c|c|c|c|c|}
\hline
& 非接地 & 消弧リアクトル接地 & 抵抗接地 & 直接接地 \\
\hline
電圧階級 & 6.6 \ \mathrm {kV} & 22~77 \ \mathrm {kV} & 22~154 \ \mathrm {kV} & 187 \ \mathrm {kV} \ 以上   \\
\hline
健全相電位上昇 & 大 & 大 & 中 & 小 \\
\hline
一線地絡電流 & 小 & 最小 & 中 & 大 \\
\hline
\end{array}
\]

3.補償リアクトル接地方式
主に\( \ 154 \ \mathrm {kV} \ \)までの抵抗接地方式を採用している地中送電線で使用される接地方式です。
地中電線はケーブルであること等により対地静電容量が大きく進み電流が大きくなりますが,通常時は三相平衡であるため磁界は打ち消し合い通信線への影響はありません。しかし,地絡等の故障時には進み電流が三相不平衡となり,通信線に電磁誘導障害を発生してしまう可能性があります。
その進み電流を補償するのが補償リアクトルで,抵抗と並列に補償リアクトルを接続します。

【解答】

解答:(5)
(1)正しい
分路リアクトルは,重負荷時等に遅れ無効電力を吸収し,系統の電圧と力率を調整します。問題文の通り,負荷変動に応じて投入したり切り離したりして使用されるため,調整が段階的となります。

(2)正しい
限流リアクトルは短絡容量(短絡電流)を抑制するため機器に直列に接続されます。短絡容量抑制対策は\( \ 2 \ \)種では比較的出題されやすい内容です。

(3)正しい
電力用コンデンサはリアクタンスが周波数に反比例し高調波電流に対しリアクタンスが大きく低下してしまうため,電力用コンデンサが過負荷となる可能性があります。電力用コンデンサに直列リアクトルを接続することで,電圧波形のひずみを改善し,コンデンサの過負荷を抑制することが可能となります。
電力用コンデンサの高調波対策としては,含有率の多い第\( \ 5 \ \)調波に対して誘導性となるように検討し\( \ \mathrm {JIS} \ \)では直列リアクトルのリアクタンスを電力用コンデンサの\( \ 6 \ \mathrm {%} \ \)以上とするよう規定されています。

(4)正しい
消弧リアクトルは,三相電力系統において,地絡を生じた場合に対地静電容量と消弧リアクトルの間で並列共振させることにより\( \ 1 \ \)線地絡電流によるアークを消滅させる方法です。したがって,ワンポイント解説「2.各中性点接地方式の特徴」の通り,\( \ 1 \ \)線地絡電流は最小となります。

(5)誤り
ワンポイント解説「3.補償リアクトル接地方式」の通り,補償リアクトル接地方式は主に地中送電線において,中性点接地抵抗器と並列に補償リアクトルを接続する方法です。