《機械》〈変圧器〉[H23:問8]変圧器の一次二次巻線の結線方法とその特徴に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

下図は,三相変圧器の結線図である。

一次電圧に対して二次電圧の位相が\( \ 30 \ \mathrm {[°]} \ \)遅れとなる結線を次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

ただし,各一次・二次巻線間の極性は減極性であり,一次電圧の相順は\( \ \mathrm {U} \ \),\( \ \mathrm {V} \ \),\( \ \mathrm {W} \ \)とする。

【ワンポイント解説】

変圧器の結線方法と角変位に関する問題です。
この問題のポイントは,\( \ \Delta \ \)結線か\( \ \mathrm {Y} \ \)結線かを見分けられるかどうかと,\( \ \Delta – \mathrm {Y} \ \)結線と\( \ \mathrm {Y} – \Delta \ \)結線のどちらが遅れとなるかの理解がされているかどうかとなります。
機械科目では,問題のような表記がされることが結構ありますので,慣れておくようにしましょう。

1.変圧器の結線方式
①\( \ \mathrm {Y-Y} \ \)結線
図1のような結線方式で,\( \ \Delta \ \)結線を持っていないため,第\( \ 3 \ \)調波を還流することができず,二次側の誘導起電力にひずみが発生してしまいます。
したがって,通常この方式を利用する時には,三次側に\( \ \Delta \ \)結線を設け,\( \ \mathrm {Y-Y-\Delta } \ \)結線として利用します。

②\( \ \mathrm {\Delta -\Delta } \ \)結線
図2のような結線方式で,一次二次側とも\( \ \Delta \ \)結線がなされているため,第\( \ 3 \ \)調波を還流することができ,二次側の誘導起電力はひずみのない正弦波が出力されます。
一次二次電圧間に位相差がなく,単相変圧器\( \ 3 \ \)台を利用した場合,\( \ 1 \ \)つの変圧器が故障しても\( \ \mathrm {V-V} \ \)結線として運転を継続することが可能となります。
一方で,中性点を持たないため,中性点接地を行う場合,接地用変圧器を使用する必要があります。

③\( \ \mathrm {Y-\Delta } \ \)結線もしくは\( \ \mathrm {\Delta -Y} \ \)結線
図3のような結線方式で,\( \ \mathrm {Y} \ \)結線側では中性点接地,\( \ \Delta \ \)結線側では第\( \ 3 \ \)調波を還流することができるので,双方の特長をどちらも利用できる方式と言えます。
しかしながら,一次二次の電圧に\( \ 30° \ \)の位相差を生じてしまうので,変圧器の並行運転の際には角変位に注意する必要があります。

④\( \ \mathrm {Y-Y-\Delta } \ \)結線
一次二次間に位相差がなく中性点接地ができるという\( \ \mathrm {Y-Y} \ \)結線の特長,及び三次側に\( \ \Delta \ \)結線がなされているため,第\( \ 3 \ \)調波を還流することができるという\( \ \mathrm {Y-\Delta } \ \)の特長を併せ持ったような結線方式となります。

⑤\( \ \mathrm {V-V} \ \)結線
単相変圧器\( \ 3 \ \)台を利用して\( \ \mathrm {\Delta -\Delta } \ \)結線で運転している場合に,\( \ 1 \ \)の変圧器が故障して運転継続する場合に利用します。
また,あらかじめ設備を小さくしておき,将来増強することができるように,この方式が用いられることもあります。
設備利用率が容量の\( \ 86.6 \ % \ \left( \displaystyle \frac {\sqrt {3}}{2}\right) \)が最大で,出力は\( \ \mathrm {\Delta -\Delta } \ \)結線の\( \ 57.7 \ % \ \left( \displaystyle \frac {1}{\sqrt {3}}\right) \)が最大となります。

2.\( \ \Delta – \mathrm {Y} \ \)結線の電圧の角変位
一次側\( \ \Delta \ \),二次側\( \ \mathrm {Y} \ \)の回路図とベクトル図を描くと図6のようになります。各部の電圧は図の通りです。
一次側の相電圧\( \ E_{\mathrm {U}} \ \),\( \ E_{\mathrm {V}} \ \),\( \ E_{\mathrm {W}} \ \)と一次側の線間電圧\( \ V_{\mathrm {UV}} \ \),\( \ V_{\mathrm {VW}} \ \),\( \ V_{\mathrm {WU}} \ \)は全く同じ電圧であるので,一次側のベクトル図は図6左下のように描けます。
次に,一次側の相電圧\( \ E_{\mathrm {U}} \ \),\( \ E_{\mathrm {V}} \ \),\( \ E_{\mathrm {W}} \ \)と二次側の\( \ E_{\mathrm {u}} \ \),\( \ E_{\mathrm {v}} \ \),\( \ E_{\mathrm {w}} \ \)の位相は等しいので,二次側の\( \ E_{\mathrm {u}} \ \),\( \ E_{\mathrm {v}} \ \),\( \ E_{\mathrm {w}} \ \)のベクトルの向きは\( \ E_{\mathrm {U}} \ \),\( \ E_{\mathrm {V}} \ \),\( \ E_{\mathrm {W}} \ \)と同じになります。
また,回路図より二次側の線間電圧\( \ V_{\mathrm {uv}} \ \),\( \ V_{\mathrm {vw}} \ \),\( \ V_{\mathrm {wu}} \ \)は,
\[
{\dot V}_{\mathrm {uv}}={\dot E}_{\mathrm {u}}-{\dot E}_{\mathrm {v}},{\dot V}_{\mathrm {vw}}={\dot E}_{\mathrm {v}}-{\dot E}_{\mathrm {w}},{\dot V}_{\mathrm {wu}}={\dot E}_{\mathrm {w}}-{\dot E}_{\mathrm {u}}
\] となり,ベクトル図は図6右下のように描けます。
結果的に\( \ V_{\mathrm {uv}} \ \)は\( \ V_{\mathrm {UV}} \ \)より\( \ \displaystyle 30°\left( \frac {\pi }{6} \ \mathrm {[rad]}\right) \ \)進むことになります。

【解答】

解答:(3)
(1)位相差なし
一次側は各変圧器が\( \ \mathrm {U} – \mathrm {V} \ \),\( \ \mathrm {V} – \mathrm {W} \ \),\( \ \mathrm {W} – \mathrm {U} \ \)間で接続されているので\( \ \Delta \ \)結線,二次側も各変圧器が\( \ \mathrm {u} – \mathrm {v} \ \),\( \ \mathrm {v} – \mathrm {w} \ \),\( \ \mathrm {w} – \mathrm {u} \ \)間で接続されているので\( \ \Delta \ \)結線となります。
したがって,\( \ \mathrm {\Delta -\Delta } \ \)結線であるため,位相差はありません。

(2)\( \ 30° \ \)進み
一次側は各変圧器が\( \ \mathrm {U} – \mathrm {V} \ \),\( \ \mathrm {V} – \mathrm {W} \ \),\( \ \mathrm {W} – \mathrm {U} \ \)間で接続されているので\( \ \Delta \ \)結線,二次側は各変圧器が\( \ \mathrm {u} \ \)相と中性点,\( \ \mathrm {v} \ \)相と中性点,\( \ \mathrm {w} \ \)相と中性点間で接続されているので\( \ \mathrm {Y} \ \)結線となります。
したがって,\( \ \Delta – \mathrm {Y} \ \)結線であるため,一次電圧と二次電圧には位相差が発生しますが,ワンポイント解説「2.\( \ \Delta – \mathrm {Y} \ \)結線の電圧の角変位」の通り,二次電圧が進みとなります。

(3)\( \ 30° \ \)遅れ
一次側は各変圧器が\( \ \mathrm {U} \ \)相と中性点,\( \ \mathrm {V} \ \)相と中性点,\( \ \mathrm {W} \ \)相と中性点間で接続されているので\( \ \mathrm {Y} \ \)結線,二次側は各変圧器が\( \ \mathrm {u} – \mathrm {v} \ \),\( \ \mathrm {v} – \mathrm {w} \ \),\( \ \mathrm {w} – \mathrm {u} \ \)間で接続されているので\( \ \Delta \ \)結線となります。
ワンポイント解説「2.\( \ \Delta – \mathrm {Y} \ \)結線の電圧の角変位」の通り,\( \ \mathrm {Y-\Delta } \ \)結線の場合は\( \ \Delta – \mathrm {Y} \ \)結線の逆となるため,二次電圧が遅れとなります。

(4)位相差なし
一次側は各変圧器が\( \ \mathrm {U} \ \)相と中性点,\( \ \mathrm {V} \ \)相と中性点,\( \ \mathrm {W} \ \)相と中性点間で接続されているので\( \ \mathrm {Y} \ \)結線,二次側も各変圧器が\( \ \mathrm {u} \ \)相と中性点,\( \ \mathrm {v} \ \)相と中性点,\( \ \mathrm {w} \ \)相と中性点間で接続されているので\( \ \mathrm {Y} \ \)結線となります。
したがって,\( \ \mathrm {Y-Y} \ \)結線であるため,位相差はありません。

(5)位相差なし
一次側は各変圧器が\( \ \mathrm {U} – \mathrm {V} \ \),\( \ \mathrm {V} – \mathrm {W} \ \)間で接続されているので\( \ \mathrm {V} \ \)結線,二次側も各変圧器が\( \ \mathrm {u} – \mathrm {v} \ \),\( \ \mathrm {v} – \mathrm {w} \ \)間で接続されているので\( \ \mathrm {V} \ \)結線となります。
したがって,\( \ \mathrm {V-V} \ \)結線であるため,位相差はありません。