《機械》〈パワーエレクトロニクス〉[H20:問9]IGBTの得失や特性に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

電力用半導体素子(半導体バルブデバイス)である\( \ \mathrm {IGBT} \ \)(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)に関する記述として,正しいのは次のうちどれか。

(1) ターンオフ時の駆動ゲート電力が\( \ \mathrm {GTO} \ \)に比べて大きい。

(2) 自己消弧能力がない。

(3) \( \ \mathrm {MOS} \ \)構造のゲートとバイポーラトランジスタとを組み合わせた構造をしている。

(4) \( \ \mathrm {MOS} \ \)形\( \ \mathrm {FET} \ \)パワートランジスタより高速でスイッチングできる。

(5) 他の大電力用半導体素子に比べて,並列接続して使用することが困難な素子である。

【ワンポイント解説】

\( \ \mathrm {IGBT} \ \)(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)に関する問題です。
本問は正しいものを見つける必要があるため,誤りを見つける問題よりは難易度は高くなりますが,正答が比較的見つけやすい問題でもあります。
動作原理や特徴は理解しておくようにして下さい。

1.\( \ \mathrm {IGBT} \ \)の動作原理
図1の記号に示すように,バイポーラトランジスタと\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)を組み合わせたようなデバイスで,\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)の速度と大容量化を同時にできる良いとこどりのデバイスです。ただし,速度は\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)の方が高速のため,小容量では\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)を使用します。特にターンオフ時間はデバイスへのキャリヤの蓄積作用のため長いです。\( \ \mathrm {IGBT} \ \)の構造及び記号は図1のようになります。

動作原理は\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)と似ており,ゲート-エミッタ間電圧\( \ V_{\mathrm {GE}} \ \)をゲート電極に加えることで電子が引き寄せられ,疑似的な\( \ \mathrm {n} \ \)形の層ができ,コレクタ-エミッタ間が導通するようになり,コレクタ電流\( \ I_{\mathrm {C}} \ \)が流れるようになります。したがって,ゲート信号で素子をターンオフできる自己消弧能力を持つ素子となります。

【解答】

解答:(3)
(1)誤り
\( \ \mathrm {IGBT} \ \)は,理論上ゲートには電流は流れないため,ターンオフ時の駆動ゲート電力が\( \ \mathrm {GTO} \ \)(ゲートターンオフサイリスタ)に比べて小さくなります。

(2)誤り
ワンポイント解説「1.\( \ \mathrm {IGBT} \ \)の動作原理」の通り,\( \ \mathrm {IGBT} \ \)はゲート電圧によりオンオフを制御できるため,自己消弧能力を持つ素子となります。

(3)正しい
ワンポイント解説「1.\( \ \mathrm {IGBT} \ \)の動作原理」の通り,\( \ \mathrm {IGBT} \ \)は\( \ \mathrm {MOS} \ \)構造のゲートとバイポーラトランジスタとを組み合わせた構造をしています。

(4)誤り
ワンポイント解説「1.\( \ \mathrm {IGBT} \ \)の動作原理」の通り,\( \ \mathrm {IGBT} \ \)よりも\( \ \mathrm {MOS} \ \)形\( \ \mathrm {FET} \ \)パワートランジスタの方が高速でスイッチングできます

(5)誤り
\( \ \mathrm {IGBT} \ \)は,原理的には抵抗の温度特性が正方向であり,並列接続して使用することが可能です。ただし,容量が異なるものやメーカーが異なるものは特性も変わるため,推奨はされないかと思います。