《機械》〈回転機〉[H25:問1]分巻、直巻、複巻直流電動機に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

直流電動機に関する記述として,誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

(1) 分巻電動機は,端子電圧を一定として機械的な負荷を増加したとき,電機子電流が増加し,回転速度は,わずかに減少するがほぼ一定である。このため,定速度電動機と呼ばれる。

(2) 分巻電動機の速度制御の方法の一つとして界磁制御法がある。これは,界磁巻線に直列に接続した界磁抵抗器によって界磁電流を調整して界磁磁束の大きさを変え,速度を制御する方法である。

(3) 直巻電動機は,界磁電流が負荷電流(電動機に流れる電流)と同じである。このため,未飽和領域では界磁磁束が負荷電流に比例し,トルクも負荷電流に比例する。

(4) 直巻電動機は,負荷電流の増減によって回転速度が大きく変わる。トルクは,回転速度が小さいときに大きくなるので,始動時のトルクが大きいという特徴があり,クレーン,巻上機などの電動機として適している。

(5) 複巻電動機には,直巻界磁巻線及び分巻界磁巻線が施され,合成界磁磁束が直巻界磁磁束と分巻界磁磁束との和になっている構造の和動複巻電動機と,差になっている構造の差動複巻電動機とがある。

【ワンポイント解説】

直流機の特性に関する問題です。問題文の誤りはなかなか見つけにくいですが,それぞれの等価回路を描き,数式で解答を導出できるぐらいになれると良いと思います。

1.分巻電動機の等価回路と特性
分巻電動機の等価回路を図1に示します。ただし,図において,\( \ E \ \)は逆起電力,\( \ V \ \)は端子電圧,\( \ I_{\mathrm {a}} \ \)は電機子電流,\( \ I_{\mathrm {f}} \ \)は界磁電流,\( \ R_{\mathrm {a}} \ \)は電機子抵抗,\( \ R_{\mathrm {f}} \ \)は界磁抵抗です。
磁束を\(\phi \),回転速度を\(N\)とすると,\(\phi ∝ I_{\mathrm {f}}\)となるので,逆起電力\(E\)は,
\[
\begin{eqnarray}
E &=&k_{\mathrm {e}}\phi N \\[ 5pt ] &=&k_{\mathrm {e}}^{\prime } I_{\mathrm {f}} N \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。またトルク\( \ T \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
T &=&k_{\mathrm {f}}\phi I_{\mathrm {a}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

2.直巻電動機の等価回路と特性
直巻電動機の等価回路を図2に示します。分巻電動機の時と同様に,\( \ E \ \)は逆起電力,\( \ V \ \)は端子電圧,\( \ I_{\mathrm {a}} \ \)は電機子電流,\( \ I_{\mathrm {f}} \ \)は界磁電流,\( \ R_{\mathrm {a}} \ \)は電機子抵抗,\( \ R_{\mathrm {f}} \ \)は界磁抵抗です。
一番の特徴は分巻は電機子回路と界磁回路が並列なのに対し,直巻は直列であるということです。
磁束を\( \ \phi \ \),回転速度を\( \ N \ \)とすると,\( \ \phi ∝ I_{\mathrm {f}}=I_{\mathrm {a}} \ \)となるので,誘導起電力(逆起電力)\( \ E \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
E &=&k_{\mathrm {e}}\phi N \\[ 5pt ] &=&k_{\mathrm {e}}^{\prime } I_{\mathrm {f}} N \\[ 5pt ] &=&k_{\mathrm {e}}^{\prime } I_{\mathrm {a}} N \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。またトルク\( \ T \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
T &=&k_{\mathrm {f}}\phi I_{\mathrm {a}} \\[ 5pt ] &=&k_{\mathrm {f}}^{\prime } I_{\mathrm {a}}^{2} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,トルクが電機子電流の\(2\)乗に比例するという特徴があります。

3.複巻電動機の等価回路と特性
複巻電動機の等価回路は図3のようになります。直巻電動機と分巻電動機を組み合わせたようなものとなっており,直巻界磁巻線と分巻界磁巻線を磁束の向きが揃うようにすると磁束を強め合う和動複巻,磁束の向きが逆になるようにすると磁束を弱め合う差動複巻となります。

【解答】

解答:(3)
(1):正しい
問題文の通りです。ワンポイント解説「1.分巻電動機の等価回路と特性」及び図1の通り,分巻電動機の逆起電力\( \ E \ \)は
\[
\begin{eqnarray}
E &=&k_{\mathrm {e}}\phi N =V-R_{\mathrm {a}}I_{\mathrm {a}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] の関係があるため,\( \ N \ \)について整理すると,
\[
\begin{eqnarray}
N &=&\frac {V-R_{\mathrm {a}}I_{\mathrm {a}}}{k_{\mathrm {e}}\phi } \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,回転速度\( \ N \ \)は電機子電流\( \ I_{\mathrm {a}} \ \)が増加した分だけわずかに減少しますが大きく変わりません。

(2):正しい
問題文の通りです。図1の界磁巻線側に可変抵抗器を直列に接続することで,界磁電流を調整して界磁磁束の大きさを変え,速度を制御することができます。

(3):誤り
ワンポイント解説「2.直巻電動機の等価回路と特性」の通り,直巻電動機は,界磁電流が負荷電流(電動機に流れる電流)と同じ大きさです。未飽和領域では界磁磁束が負荷電流に比例しますが,トルクは負荷電流の2乗に比例します

(4):正しい
問題文の通りです。図2より,通常時の電機子電流\(I_{\mathrm {a}}\)の大きさは,
\[
\begin{eqnarray}
I_{\mathrm {a}} &=\frac {V-E}{R_{\mathrm {a}}+R_{\mathrm {f}}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となりますが,始動時は
\[
\begin{eqnarray}
I_{\mathrm {a}} &=\frac {V}{R_{\mathrm {a}}+R_{\mathrm {f}}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,非常に大きくなります。(\(I_{\mathrm {a}}=I_{\mathrm {f}}\))

(5):正しい
問題文の通りです。複巻電動機の等価回路は図3のようになり,合成界磁磁束は巻線の向きにより和動複巻と差動複巻になります。