《電力・管理》〈電気施設管理〉[R05:問6]電力系統の周波数に関する計算・論説問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

電力系統の周波数に関して,次の問に答えよ。

(1) 「電気事業法」及び「電気事業法施行規則」において,電力系統の周波数をどのような値に維持するよう努めなければならないと規定されているか。最も適切なものを選んで記号で答えよ。

 a) \( \ 50±0.5 \ \mathrm {Hz} \ \)又は\( \ 60±0.5 \ \mathrm {Hz} \ \)

 b) \( \ 50±1 \ \mathrm {Hz} \ \)又は\( \ 60±1 \ \mathrm {Hz} \ \)

 c) 標準周波数

 d) 一定周波数

 e) 特に規定されていない

(2) 下図は,電力系統の負荷が変動した際に周波数を維持するための制御方式の分担を表した概念図である。これについて次の問に答えよ。

 a) 図中の(a)に入る適切な語句を答えよ。

 b) 図中の(b)ガバナフリーとはどのような制御か,\( \ 100 \ \)字程度以内で説明せよ。

(3) 電力系統の周波数低下を検出して負荷遮断するために変電所に設置される保護リレーを英字\( \ 3 \ \)文字で答えよ。また,送電線や変圧器の保護リレーが事故除去リレーに分類されることに対比して,このリレーは何リレーに分類されるか答えよ。

(4) \( \ \mathrm {A\cdot B} \ \)二つの系統が連系線でつながれた電力系統に,平常時より周波数が\( \ 1.5 \ \mathrm {Hz} \ \)以上低下すると動作するよう整定された小問(3)の保護リレーが設置されている。このとき,次の問に答えよ。

 a) \( \ \mathrm {A} \ \)及び\( \ \mathrm {B} \ \)系統の系統定数\( \ K_{\mathrm {A}} \ \mathrm {[MW / 0.1 \ Hz]} \ \),\( \ K_{\mathrm {B}} \ \mathrm {[MW / 0.1 \ Hz]} \ \)を求めよ。

   ただし,
    \( \ \mathrm {A} \ \)系統の容量\( \ 12 \ 000 \ \mathrm {MW} \ \),百分率で表した系統定数\( \ 1.0 \ \mathrm {%MW / 0.1 \ Hz} \ \)
    \( \ \mathrm {B} \ \)系統の容量\( \ 5 \ 000 \ \mathrm {MW} \ \),百分率で表した系統定数\( \ 0.8 \ \mathrm {%MW / 0.1 \ Hz} \ \)
   とする。

 b) この系統全体の系統定数\( \ K \ \mathrm {[MW / 0.1 \ Hz]} \ \)を求めよ。

 c) この系統で\( \ 2 \ 000 \ \mathrm {MW} \ \)の電源が脱落した際の周波数低下\( \ \mathit {\Delta } F \ \mathrm {[Hz]} \ \)を求めよ。

 d) c)の結果を用いて,この場合に保護リレーが動作するか答えよ。

【ワンポイント解説】

電力系統の周波数調整と系統特性係数に関する論説・計算問題です。
\( \ 1 \ \)種では周波数調整方法に関する出題はされていましたが,\( \ 2 \ \)種では出題はなかったので,受験生にとっては厳しい問題であったかと思います。
周波数特性係数の意味は本問でしっかりと理解しておきましょう。

1.電力系統における周波数調整方法
①微小変動(数秒~数十秒の変動)
負荷の自己制御性を利用して調整します。一般的な回転機負荷は周波数が上がると消費電力が増え,周波数が下がると消費電力が減少します。この特性を利用し周波数を制御します。

②短周期変動(数秒~数分程度の変動)
発電系統のガバナフリー運転で調整します。発電機の調速機によって周波数変化量から出力変化量を約\( \ 1.0 \ \mathrm {[%MW/0.1Hz]} \ \)程度で調整します。例えば火力発電所であったら,タービン入口のガバナ開度を周波数が低い場合は増加し,周波数が高い場合は減少させて蒸気流入量を調整します。

③長周期変動(数分~数十分の変動)
系統の周波数と基準周波数の偏差を検出して中央給電指令所からの制御信号に伴い,負荷周波数制御\( \ \left( \mathrm {LFC}\right) \ \)で調整します。火力発電所であれば,中央給電指令所からの信号に合わせ出力をコントロールさせます。

④日負荷変動(数十分~数時間の変動)
天候,気温,湿度等のデータを元に需要予測を決定し,出力配分を各発電所の信号へ送ります。経済負荷配分制御\( \ \left( \mathrm {ELD}\right) \ \)により最も経済的な配分を行い,各発電機の出力調整,起動停止等を行います。

2.保護リレーの分類
①事故除去リレー
事故が発生した設備を系統から切り離すリレーです。
主保護リレーと後備保護リレーが設けられるのが一般的で,主保護リレーは短絡や地絡等の事故発生時に直ちに動作するリレーで,後備保護は主保護リレーが動作しない時に動作するリレーです。

②事故波及防止リレー
ある地点での事故発生に伴い波及する系統への動揺やじょう乱を防止するためのリレーです。
一般に,有効電力の需給バランスに伴う系統周波数の異常防止,無効電力のバランスに伴う異常電圧の抑制,過渡安定度に伴う系統動揺の抑制,などに関連するリレーがあります。

3.系統周波数特性係数
一般に\( \ K \ \mathrm {[MW / Hz]} \ \)もしくは\( \ K^{\prime } \ \mathrm {[MW / 0.1Hz]} \ \)で表され,電源の容量が変化した際に系統周波数がどれだけ変化するかを示す指標となります。定量的に示すと,電源が\( \ \Delta P \ \mathrm {[MW]} \ \)変化したときの系統周波数の変化\( \ \Delta f \ \mathrm {[Hz]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
\Delta f &=&\frac {\Delta P}{K} \\[ 5pt ] &=&\frac {\Delta P}{10K^{\prime }} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

また,図2のように\( \ 2 \ \)系統以上の系統周波数特性係数が与えられている場合について,系統周波数特性係数\( \ K_{\mathrm {A}} \ \mathrm {[MW / Hz]} \ \)の系統\( \ \mathrm {A} \ \)と系統周波数特性係数\( \ K_{\mathrm {B}} \ \mathrm {[MW / Hz]} \ \)の系統\( \ \mathrm {B} \ \)があった場合,全体の系統周波数特性係数\( \ K \ \mathrm {[MW / Hz]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
K&=&K_{\mathrm {A}}+K_{\mathrm {B}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,例えば,系統\( \ \mathrm {A} \ \)で\( \ \Delta P_{\mathrm {A}} \ \mathrm {[MW]} \ \)変化があったときの系統全体の周波数変化量\( \ \Delta f \ \mathrm {[Hz]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
\Delta f &=&\frac {\Delta P_{\mathrm {A}}}{K} \\[ 5pt ] &=&\frac {\Delta P_{\mathrm {A}}}{K_{\mathrm {A}}+K_{\mathrm {B}}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] であり,このときの連系線\( \ \mathrm {A-B} \ \)の潮流変化\( \ \Delta P_{\mathrm {T}} \ \mathrm {[MW]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
\Delta P_{\mathrm {T}} &=&\Delta f K_{\mathrm {B}} \\[ 5pt ] &=&\frac {K_{\mathrm {B}} }{K_{\mathrm {A}}+K_{\mathrm {B}}}\Delta P_{\mathrm {A}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

【解答】

(1)電力系統の周波数をどのような値に維持するよう努めなければならないと規定されているか
(ポイント)
・電気事業法第26条及び電気事業法施行規則第38条を理解しているかを問う問題です。

(試験センター解答)
 c) 標準周波数

<電気事業法第26条>
一般送配電事業者は、その供給する電気の電圧及び周波数の値を経済産業省令で定める値に維持するように努めなければならない。

2 経済産業大臣は、一般送配電事業者の供給する電気の電圧又は周波数の値が前項の経済産業省令で定める値に維持されていないため、電気の使用者の利益を阻害していると認めるときは、一般送配電事業者に対し、その値を維持するため電気工作物の修理又は改造、電気工作物の運用の方法の改善その他の必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

3 一般送配電事業者は、経済産業省令で定めるところにより、その供給する電気の電圧及び周波数を測定し、その結果を記録し、これを保存しなければならない。

<電気事業法施行規則第38条>
法第26条第1項(法第27条の26第1項において準用する場合を含む。次項において同じ。)の経済産業省令で定める電圧の値は、その電気を供給する場所において次の表の上欄に掲げる標準電圧に応じて、それぞれ同表の下欄に掲げるとおりとする。
\[
\begin{array}{|c|c|}
\hline
{標準電圧} & {維持すべき値} \\
\hline
{100 \ \mathrm {V}} & 101 \ \mathrm {V} \ の上下 \ 6 \ \mathrm {V} \ を超えない値        \\
\hline 
{200 \ \mathrm {V}} & 202 \ \mathrm {V} \ の上下 \ 20 \ \mathrm {V} \ を超えない値        \\
\hline
\end{array}
\]

2 法第26条第1項の経済産業省令で定める周波数の値は、その者が供給する電気の標準周波数に等しい値とする。

(2)周波数を維持するための制御方式
(ポイント)
・ワンポイント解説「1.電力系統における周波数調整方法」の通りです。

(試験センター解答例)
 a) \( \ \mathrm {LFC} \ \)(負荷周波数制御,\( \ \mathrm {AFC} \ \)(自動周波数制御)も可)
 b) 負荷変動により発電機の回転速度が変動した際,発電機の動力である蒸気又は水の流量を自動的に調整する調速機(ガバナ)により,回転速度が上昇した時は出力を抑制,低下した時は出力を増加させて回転速度を一定に保つ制御。

(3)電力系統の周波数低下を検出して負荷遮断するために変電所に設置される保護リレーの英字\( \ 3 \ \)文字とこのリレーが何リレーに分類されるか
(ポイント)
・ワンポイント解説「2.保護リレーの分類」の通りです。
・周波数低下を検出するものを不足周波数継電器\( \ \left( \mathrm {UFR:Under \ Frequency \ Relay}\right) \ \),周波数上昇を検出するものを過周波数継電器\( \ \left( \mathrm {OFR:Over \ Frequency \ Relay}\right) \ \)といいます。

(試験センター解答例)
・\( \ \mathrm {UFR} \ \)
・事故波及防止リレー

(4)a)\( \ \mathrm {A} \ \)及び\( \ \mathrm {B} \ \)系統の系統定数\( \ K_{\mathrm {A}} \ \mathrm {[MW / 0.1 \ Hz]} \ \),\( \ K_{\mathrm {B}} \ \mathrm {[MW / 0.1 \ Hz]} \ \)
\( \ \mathrm {A} \ \)系統の容量\( \ P_{\mathrm {A}}=12 \ 000 \ \mathrm {[MW]} \ \),百分率で表した系統定数\( \ %K_{\mathrm {A}}=1.0 \ \mathrm {[%MW / 0.1 \ Hz]} \ \)なので,
\[
\begin{eqnarray}
K_{\mathrm {A}} &=&\frac {%K_{\mathrm {A}}}{100}\cdot P_{\mathrm {A}} \\[ 5pt ] &=&\frac {1.0}{100}\times 12 \ 000 \\[ 5pt ] &=&120 \ \mathrm {[MW / 0.1 \ Hz]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められ,\( \ \mathrm {B} \ \)系統の容量\( \ P_{\mathrm {B}}=5 \ 000 \ \mathrm {[MW]} \ \),百分率で表した系統定数\( \ %K_{\mathrm {B}}=0.8 \ \mathrm {[%MW / 0.1 \ Hz]} \ \)なので,
\[
\begin{eqnarray}
K_{\mathrm {B}} &=&\frac {%K_{\mathrm {B}}}{100}\cdot P_{\mathrm {B}} \\[ 5pt ] &=&\frac {0.8}{100}\times 5 \ 000 \\[ 5pt ] &=&40 \ \mathrm {[MW / 0.1 \ Hz]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。

(4)b)系統全体の系統定数\( \ K \ \mathrm {[MW / 0.1 \ Hz]} \ \)
系統全体の系統定数\( \ K \ \mathrm {[MW / 0.1 \ Hz]} \ \)は,ワンポイント解説「3.系統周波数特性係数」の通り,
\[
\begin{eqnarray}
K&=&K_{\mathrm {A}}+K_{\mathrm {B}} \\[ 5pt ] &=&120+40 \\[ 5pt ] &=&160 \ \mathrm {[MW / 0.1 \ Hz]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。

(4)c)この系統で\( \ 2 \ 000 \ \mathrm {MW} \ \)の電源が脱落した際の周波数低下\( \ \mathit {\Delta } F \ \mathrm {[Hz]} \ \)
\( \ \mathit {\Delta } P=2 \ 000 \ \mathrm {[MW]} \ \)の電源が脱落した際の周波数低下\( \ \mathit {\Delta } F \ \mathrm {[Hz]} \ \)は,ワンポイント解説「3.系統周波数特性係数」の通り,
\[
\begin{eqnarray}
\Delta F &=&\frac {\mathit {\Delta } P}{10K} \\[ 5pt ] &=&\frac {2 \ 000}{10\times 160} \\[ 5pt ] &=&1.25 \ \mathrm {[Hz]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。

(4)d)保護リレーが動作するか
平常時より周波数が\( \ 1.5 \ \mathrm {Hz} \ \)以上低下すると動作するので,c)の場合には動作しない。



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