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【問題】
【難易度】★★★★☆(やや難しい)
火力発電所の環境対策に関する記述として,誤っているのは次のうちどれか。
(1) 燃料として天然ガス\( \ \left( \mathrm {LNG} \right) \ \)を使用することは,硫黄酸化物による大気汚染防止に有効である。
(2) 排煙脱硫装置は,硫黄酸化物を粉状の石灰と水との混合液に吸収させ除去する。
(3) ボイラにおける酸素濃度の低下を図ることは,窒素酸化物低減に有効である。
(4) 電気集じん器は,電極に高電圧をかけ,ガス中の粒子をコロナ放電で放電電極から放出される正イオンによって帯電させ,分離・除去する。
(5) 排煙脱硝装置は,窒素酸化物を触媒とアンモニアにより除去する。
【ワンポイント解説】
火力発電所の環境対策に関する問題です。
環境汚染物質には窒素酸化物\( \ \left( \mathrm {NO_{x}}\right) \ \),硫黄酸化物\( \ \left( \mathrm {SO_{x}}\right) \ \),ばいじんがあり,発生源等覚えることも多く,最初はなかなか頭に入らないかもしれませんが,一つ一つ丁寧に覚えていきましょう。
1.火力発電所で発生する大気汚染物質
①窒素酸化物\( \ \left( \mathrm {NO_{x}}\right) \ \)
燃料に含まれる窒素と酸素が反応することにより発生するフューエル\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \),高温燃焼をすることにより発生するサーマル\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)があります。
のどや気管,肺等に悪影響を与えるとされて大気汚染防止法で規制されています。
火力発電所での対策としては,脱硝装置で排ガス中に含まれる\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)を取り除く,低\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)バーナーや\( \ 2 \ \)段燃焼法を採用して高温燃焼を避ける,排ガス混合通風機を採用して燃焼用空気中の酸素濃度を下げ高温燃焼を避ける,等の方法が取られます。
②硫黄酸化物\( \ \left( \mathrm {SO_{x}}\right) \ \)
主に石炭や液体燃料中に含まれる硫黄分が酸素と反応することにより発生します。
窒素酸化物と同様にのどや気管等に悪影響を与え,ぜん息の原因にもなるとされています。
火力発電所での対策としては,燃料中に硫黄分を含まない\( \ \mathrm {LNG} \ \)や良質の液体燃料を採用する,脱硫装置を採用する等の方法が取られます。
③ばいじん
主に燃料中に含まれる灰分が燃焼することにより発生します。
ばいじんに関しても気道等呼吸器系に影響を与えるとされており,また煙も黒煙となります。
火力発電所の対策としては電気集塵機を採用して排ガス中に含まれるばいじんを静電気の力で吸引する等の方法が取られます。
2.火力発電所の煙風道のフロー
図1に石炭火力発電所の煙風道系統の概略フローの一例を示します。図内の各補機の名称及び役割を覚えておいて下さい。
①通風機
押込通風機:ボイラへ空気を送るためのファン。
誘引通風機:ボイラから出てくる排ガスを煙突へ送るファン。押込通風機よりも大き
くして,ボイラ内を負圧にし,粉塵の外への漏れ出しを防ぎます。
排ガス混合通風機:排ガスを燃焼用空気に混ぜ,酸素濃度を下げて燃焼温度を下げる
ことにより,サーマル\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)を低減させます。
②熱交換器
空気予熱器:排ガスと燃焼用空気を熱交換して,全体の熱効率を上げます。
\(\mathrm {GGH}\):冷却吸収塔前後の排ガスを熱交換して,煙突の腐食を防止します。
③環境対策装置
脱硝装置 :排ガスの\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)を窒素と水に分解し,排ガス中の\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)濃度を
低減させます。乾式のアンモニア接触還元法が一般的です。
電気集塵機:排ガスに含まれるばいじんを静電気を利用して回収し,排ガス
中のばいじん濃度を低減させます。
冷却吸収塔:排ガス中の\( \ \mathrm {SO_{x}} \ \)を回収し,排ガス中の\( \ \mathrm {SO_{x}} \ \)濃度を低減させ
ます。大規模発電所では石灰石をスラリー状にして\( \ \mathrm {SO_{x}} \ \)と反
応させる石灰石膏法が一般的です。
【解答】
解答:(4)
(1):正しい
ワンポイント解説「1.火力発電所で発生する大気汚染物質」の通りです。天然ガス\( \ \left( \mathrm {LNG} \right) \ \)は液化する過程で硫黄分が除去されるため,硫黄酸化物の発生はほとんどありません。
(2):正しい
ワンポイント解説「2.火力発電所の煙風道のフロー」の通り,排煙脱硫装置(冷却吸収塔)は,硫黄酸化物を粉状の石灰と水との混合液に吸収させ除去する装置です。
(3):正しい
ワンポイント解説「1.火力発電所で発生する大気汚染物質」の通り,ボイラにおける酸素濃度の低下を図ることにより,高温燃焼を避けサーマル\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)を低減させることができます。
(4):誤り
問題文の通り,電気集じん器は電極に高電圧をかけ,ガス中の粒子をコロナ放電で帯電させ分離・除去するものですが,放電電極から放出される電子により負に帯電させて集じん極に吸着させます。
電気集じん器のメカニズムは3種令和3年問4に出題されていますので,詳しくはそちらをご覧下さい。
(5):正しい
ワンポイント解説「2.火力発電所の煙風道のフロー」の通り,窒素酸化物を触媒とアンモニアにより除去し,無害の窒素と水に分解します。