《電力》〈送電〉[R06上:問8]送電線に発生する振動とその対策に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

架空送電線の振動の特徴と対策に関する記述として,誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

(1) 送電線の上下配列にオフセットを設けて,電線どうしが接触しないようにする方法がある。

(2) 電線に当たる一様な微風により,電線の背後に空気の渦が生じ,電線が上下に振動する現象を微風振動といい,これを抑制する方法としてダンパの取付けがある。

(3) 電線に付着した氷雪の断面が非対称になり,これに風が当たることで発生する揚力の影響で,電線が振動する現象をギャロッピングといい,多導体では発生しにくい。

(4) 多導体の送電線に風速\( \ 10 \ \mathrm {m / s} \ \)を超える風が当たることで,多導体の素導体が不安定になり電線が振動する現象をサブスパン振動という。

(5) 電線に付着した氷雪が脱落し,その反動で電線がはね上がる現象をスリートジャンプという。

【ワンポイント解説】

架空送電線の振動に関する問題です。
かなりの頻度で出題されている振動に関する問題ですが,本問は知識があってもなかなか解答が見つからない問題であったかと思います。確実に正答である選択肢とそうでない選択肢を見極め,消去法で解くようにして下さい。

1.微風振動
風速\( \ 5 \ \mathrm {m/s} \ \)以下の比較的緩やかな風が電線と垂直方向に吹くと電線の風下側にカルマン渦が生じ,上下に振動する現象です。繰り返し疲労が蓄積すると,素線切れや断線を引き起こす可能性があります。
特徴
 ①電線の固有振動数と一致すると発生するため,径間の長い場合や,重量の軽い場合に発生しやすい。
 ②風速が緩やかでかつ一定の時発生しやすいため,山間部よりも平野部に発生しやすい。
 ③気流が安定している早朝あるいは日没に発生しやすい。
対策
 ①ダンパを取付け振動のエネルギーを吸収し,減衰を早める。
 ②アーマロッドを使用して,電線を補強し振動のエネルギーを吸収する。

2.ギャロッピング
電線に非対称な氷雪が付着し肥大化すると,微風振動と同様に電線の風下側にカルマン渦が生じ振動する現象です。
特徴
 ①スペーサのために電線が回転できない多導体方式の方が発生しやすい。
 ②風圧を受けるエネルギーが大きいため,径間によって振幅が\( \ 10 \ \mathrm {m} \ \)以上になる場合もあり,相間短絡を起こしやすい。
対策
 ①難着雪リングを取り付け,着雪を防止する。
 ②相間スペーサを取り付け,短絡事故を防止する。
 ③ルート選定で風の主方向と直角に当たりやすくなるところ,冬季風が直接さらされる尾根上などを避けるようにする。

3.サブスパン振動
電線のスペーサとスペーサの間(サブスパン)で生じる振動。原理はギャロッピングと同じく電線の風下側にカルマン渦が生じ振動する現象です。
特徴
 ①振動周波数が\( \ 1~2 \ \mathrm {Hz} \ \)で,振幅が最大\( \ 50 \ \mathrm {cm} \ \)程度となる。
対策
 ①スペーサの間隔を適正に配置する。
 ②防振装置を採用する。
 ③ルート選定で風の主方向と直角に当たりやすくなるところを避けるようにする。

4.コロナ振動
電線下面にある水滴が滴下する際,コロナ放電により電線を蹴るとその反動で揚力を生じ,電線の固有振動数と一致するとコロナ振動を生じます。
特徴
 ①降雨量が多く(\( \ 5 \ \mathrm {mm/h} \ \)以上)で,無風の時発生しやすい。
 ②振幅は\( \ 10 \ \mathrm {cm} \ \)程度である。
対策
 ①多導体方式を採用し,コロナ放電が発生しにくいようにする。
 ②がいし連結数を見直す等で重量を調整し,電線の固有振動数を調整する。

5.スリートジャンプ
氷雪が着氷し落下した際の跳ね上がりによる振動。一時的なもので,減衰性ですが,相間短絡を引き起こす可能性があります。
特徴
 ①跳ね上がりが大きいと相間短絡を引き起こす。
 ②風の影響ではないため,持続性はない。
対策
 ①難着雪リングを取り付け,着雪を防止する。
 ②相間スペーサを取り付け,短絡事故を防止する。
 ③電線同士の水平方向に間隔を設け(オフセット),電線の真上に電線がないようにする。

【解答】

解答:(3)
(1):正しい
ワンポイント解説「5.スリートジャンプ」の通り,送電線の上下配列にオフセットを設け,電線どうしが接触しないようにする振動対策があります。

(2):正しい
ワンポイント解説「1.微風振動」の通り,電線に当たる一様な微風により,電線の背後に空気の渦が生じ,電線が上下に振動する現象を微風振動といい,これを抑制する方法としてダンパの取付けがあります。

(3):誤り
ワンポイント解説「2.ギャロッピング」の通り,電線に付着した氷雪の断面が非対称になり,これに風が当たることで発生する揚力の影響で,電線が振動する現象をギャロッピングといい,多導体で発生しやすい特徴があります。

(4):正しい
ワンポイント解説「3.サブスパン振動」の通り,多導体の送電線に風速\( \ 10 \ \mathrm {m / s} \ \)を超える風が当たることで,多導体の素導体が不安定になり電線が振動する現象をサブスパン振動といいます。

(5):正しい
ワンポイント解説「5.スリートジャンプ」の通り,電線に付着した氷雪が脱落し,その反動で電線がはね上がる現象をスリートジャンプといいます。