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【問題】
【難易度】★★★☆☆(普通)
電力系統に現れる過電圧(異常電圧)はその発生原因により,外部過電圧と内部過電圧とに分類される。前者は,雷放電現象に起因するもので雷サージ電圧ともいわれる。後者は,電線路の開閉操作等に伴う開閉サージ電圧と地絡事故時等に発生する短時間交流過電圧とがある。
各種過電圧に対する電力系統の絶縁設計の考え方に関する記述として,誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
(1) 絶縁協調とは,送電線路や発変電所に設置される電力設備等の絶縁について,安全性と経済性のとれた絶縁設計を行うために,外部過電圧そのものの大きさを低減することである。
(2) 避雷器は,過電圧の波高値がある値を超えた場合,特性要素に電流が流れることにより過電圧値を制限して電力設備の絶縁を保護し,かつ,続流を短時間のうちに遮断して原状に自復する機能を持った装置である。
(3) 架空送電線路の絶縁は,外部過電圧に対しては,必ずしも十分に耐えるように設計されるとは限らない。
(4) 送電線路の絶縁及び発変電所に設置される電力設備等の絶縁は,いずれも原則として,内部過電圧に対しては十分に耐えるように設計される。
(5) 発変電所に設置される電力設備等の絶縁は,外部過電圧に対しては,避雷器によって保護されることを前提に設計される。その保護レベルは,避雷器の制限電圧に基づいて決まる。
【ワンポイント解説】
電力系統に発生する過電圧に関する問題です。
最初は覚えることが多く大変かもしれませんが,何度も出題されている内容なので確実に各過電圧を理解しておくようにして下さい。
本問は平成19年問7の再出題となります。
1.外部過電圧
外部過電圧は雷により発生する過電圧で,以下のように分類されます。
①直撃雷
図1のように送電線や機器に直接落雷する現象です。
過電圧の大きさは非常に大きく\( \ 100 \ \)万\( \ \mathrm {V} \ \)以上になり,がいしの絶縁耐力を超えフラッシオーバが発生します。
フラッシオーバをしないと機器に過電圧が加わるので,がいしの連結個数は適切にする必要があります。
②誘導雷
図2のように,帯電した雷雲(一般に夏季雷は負極性)が送電線に近づくと静電誘導により反対の極性の電荷が雷雲付近に集まり,落雷等で放電されると送電線に蓄えられていた電荷が一気に解放され,大きな電荷の移動が起こる現象です。
雷過電圧の中で最も発生数が多い特徴があります。
③逆フラッシオーバ
図3のように鉄塔や架空地線に落雷したときに,がいしの絶縁耐力を超え,送電線側に過電圧が侵入する現象です。
2.内部過電圧
開閉器等電力系統の内部的要因により発生する過電圧で,発生源により以下のように分類されます。
①開閉過電圧
遮断器や断路器の開閉に伴って,電流の大きな変化が発生し過電圧となります。
②一線地絡時の健全相の対地電圧上昇
一線地絡時に健全相の電圧が上昇する過電圧で,原理上完全地絡の場合故障相の電位が零になることから,健全相の電圧が通常時の\( \ \sqrt {3} \ \)倍まで上昇することになります。
③フェランチ現象による過電圧
フェランチ現象により,軽負荷時に受電端電圧が送電端電圧より高くなることにより受電端側に発生する過電圧となります。
④自己励磁現象による過電圧
自己励磁現象により,発電機の端子電圧が上昇することにより発生する過電圧です。
3.絶縁協調の考え方
機器は遮断器や開閉器動作時の開閉過電圧をはじめとした内部過電圧には機器の絶縁で耐えられるように設計されますが,落雷等の外部過電圧を耐えるように設計することは経済的にほぼ不可能なので,避雷器等の保護装置を設けます。
避雷器はある一定以上の電圧(制限電圧)になると放電する性質を持ち,かつ放電開始後電圧が低下した後の続流を短時間に遮断できる機能を持つ素子が利用されます。そのため,電路の電圧は制限電圧以上には上昇せず機器は保護されます。
4.避雷器の電圧―電流特性
避雷器に扱われる炭化ケイ素(\( \ \mathrm {SiC} \ \))素子と酸化亜鉛(\( \ \mathrm {ZnO} \ \))素子の電圧―電流特性を図9に示します。
図9のように酸化亜鉛(\( \ \mathrm {ZnO} \ \))は一般的な抵抗と異なり電圧と電流が比例せず,非線形抵抗特性と呼ばれます。
炭化ケイ素(\( \ \mathrm {SiC} \ \))素子単体では通常運転時でも電流が流れてしまう反面,酸化亜鉛(\( \ \mathrm {ZnO} \ \))素子の場合通常電圧時では電流が流れないため,近年では酸化亜鉛(\( \ \mathrm {ZnO} \ \))素子が多く採用されています。
【解答】
解答:(1)
(1):誤り
ワンポイント解説「3.絶縁協調の考え方」「4.避雷器の電圧―電流特性」の通り,絶縁協調とは,送電線路や発変電所に設置される電力設備等の絶縁について,安全性と経済性のとれた絶縁設計を行うためのものですが,外部過電圧そのものの大きさを低減することは現実的ではなく,避雷器により逃がすことになります。
(2):正しい
ワンポイント解説「3.絶縁協調の考え方」「4.避雷器の電圧―電流特性」の通り,避雷器は,過電圧の波高値がある値を超えた場合,特性要素に電流が流れることにより過電圧値を制限して電力設備の絶縁を保護し,かつ,続流を短時間のうちに遮断して原状に自復する機能を持った装置です。
(3):正しい
ワンポイント解説「3.絶縁協調の考え方」の通り,架空送電線路の絶縁は,外部過電圧に対しては,十分に耐えるようには設計されません。
(4):正しい
ワンポイント解説「3.絶縁協調の考え方」の通り,電力設備等の絶縁は,内部過電圧に対しては十分に耐えるように設計されます。
(5):正しい
ワンポイント解説「3.絶縁協調の考え方」「4.避雷器の電圧―電流特性」の通り,電力設備等の絶縁は,外部過電圧に対しては,避雷器によって保護されることを前提に設計され,その保護レベルは,避雷器の制限電圧に基づいて決まります。