《法規》〈電気施設管理〉[H29:問12]自家用電気設備での三相短絡事故に関する計算問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

図に示す自家用電気設備で変圧器二次側(\( \ 210 \ \mathrm {V} \ \)側)\( \ \mathrm {F} \ \)点において三相短絡事故が発生した。次の(a)及び(b)の問に答えよ。

ただし,高圧配電線路の送り出し電圧は\( \ 6.6 \ \mathrm {kV} \ \)とし,変圧器の仕様及び高圧配電線路のインピーダンスは表のとおりとする。なお,変圧器二次側からF点までのインピーダンス,その他記載の無いインピーダンスは無視するものとする。


          表
\[
\begin{array}{|l|l|}
\hline
変圧器定格容量/相数 & 300 \ \mathrm {kV\cdot A}/三相 \\
\hline
変圧器定格電圧 & 一次 \ 6.6 \ \mathrm {kV} \ / \ 二次 \ 210 \ \mathrm {V} \\
\hline
変圧器百分率抵抗降下 & 2%(基準容量 \ 300 \ \mathrm {kV\cdot A}) \\
\hline
変圧器百分率リアクタンス降下 & 4%(基準容量 \ 300 \ \mathrm {kV\cdot A}) \\
\hline
高圧配電線路百分率抵抗降下 & 20%(基準容量 \ 10 \ \mathrm {MV\cdot A}) \\
\hline
高圧配電線路百分率リアクタンス降下 & 40%(基準容量 \ 10 \ \mathrm {MV\cdot A}) \\
\hline
\end{array}
\]

(a) \( \ \mathrm {F} \ \)点における三相短絡電流の値\( \ [\mathrm {kA}] \ \)として,最も近いものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

 (1) \(1.2\)  (2) \(1.7\)  (3) \(5.2\)  (4) \(11.7\)  (5) \(14.2\)

(b) 変圧器一次側(\( \ 6.6 \ \mathrm {kV} \ \)側)に変流器\( \ \mathrm {CT} \ \)が接続されており,\( \ \mathrm {CT} \ \)二次電流が過電流継電器\( \ \mathrm {OCR} \ \)に入力されているとする。三相短絡事故発生時の\( \ \mathrm {OCR} \ \)入力電流の値\( \ [\mathrm {A}] \ \)として,最も近いものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
ただし,\( \ \mathrm {CT} \ \)の変流比は\( \ 75 \ \mathrm {A}/5 \ \mathrm {A} \ \)とする。

 (1) \(12\)  (2) \(18\)  (3) \(26\)  (4) \(30\)  (5) \(42\)

【ワンポイント解説】

(a)は電力科目にも出題される問題です。%インピーダンスを苦手としている方が多くいらっしゃいます。事故電流を求めるのに非常に計算が楽となるため,電気では使用します。%インピーダンスは角度のラジアンと同じで,最初はわかりにくい印象を受けますが,慣れてしまえばそれほど苦にはなりません。

1.百分率インピーダンスの定義
基準容量\( \ P_{\mathrm {n}} \ \),基準電圧\( \ V_{\mathrm {n}} \ \),基準電流\( \ I_{\mathrm {n}} \ \)とすると,インピーダンス\( \ Z \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)の百分率インピーダンス\( \ %Z \ \mathrm {[%]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
%Z&=&\frac {ZI_{\mathrm {n}}}{\displaystyle \frac {V_{\mathrm {n}}}{\sqrt {3}}}\times 100 \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] で定義され,上式を変形すると,
\[
\begin{eqnarray}
%Z&=&\frac {\sqrt {3}ZI_{\mathrm {n}}}{V_{\mathrm {n}}}\times 100 \\[ 5pt ] &=&\frac {\sqrt {3}ZV_{\mathrm {n}}I_{\mathrm {n}}}{V_{\mathrm {n}}^{2}}\times 100 \\[ 5pt ] &=&\frac {ZP_{\mathrm {n}}}{V_{\mathrm {n}}^{2}}\times 100 \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

2.百分率インピーダンスの基準容量換算
「1.百分率インピーダンスの定義」より,\( \ %Z \ \)と\( \ P_{\mathrm {n}} \ \)が比例関係になることがわかります。
したがって,基準容量\( \ P_{\mathrm {n1}} \ \)の時の百分率インピーダンスを\( \ %Z_{1} \ \)とした時に,基準容量\( \ P_{\mathrm {B2}} \ \)に換算した百分率インピーダンスを\( \ %Z_{2} \ \)とすると,
\[
\begin{eqnarray}
%Z_{2}&=&\frac {P_{\mathrm {n2}}}{P_{\mathrm {n1}}}\times %Z_{1} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

3.三相短絡電流\( \ I_{\mathrm {s}} \ \)の導出
定格電流を\( \ I_{\mathrm {n}} \ \),線路の百分率インピーダンスを\( \ %Z \ \)とすると,
\[
\begin{eqnarray}
I_{\mathrm {s}}&=&\frac {I_{\mathrm {n}}}{%Z}\times 100 \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

【解答】

(a)解答:(5)
基準容量を\( \ 300 \ \mathrm {kV\cdot A} \ \)として,高圧配電線路百分率抵抗降下\( \ %R_{1} \ \)と高圧配電線路百分率リアクタンス降下\( \ %X_{1} \ \)を求めると,
\[
\begin{eqnarray}
%R_{1}&=&20\times \frac {300\mathrm {kV\cdot A}}{10000\mathrm {kV\cdot A}} \\[ 5pt ] &=&0.6 \ [%] \\[ 5pt ] %X_{1}&=&40\times \frac {300\mathrm {kV\cdot A}}{10000\mathrm {kV\cdot A}} \\[ 5pt ] &=&1.2 \ [%] \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となる。変圧器と線路の合成インピーダンス\( \ %Z \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
%Z&=&2+0.6+\mathrm {j}4+\mathrm {j}1.2 \\[ 5pt ] &=&2.6+\mathrm {j}5.2 \ [%] \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められ,その大きさ\( \ \left|%Z\right| \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
\left| %Z\right| &=&\sqrt {2.6^{2}+5.2^{2}} \\[ 5pt ] &≒& 5.814 \ [%] \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となる。一方,\( \ \mathrm {F} \ \)点側の線路の定格電流\( \ I_{\mathrm {n}} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
I_{\mathrm {n}}&=&\frac {300000}{\sqrt{3}\times 210} \\[ 5pt ] &≒&824.8 \ [\mathrm {A}] \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となるため,三相短絡電流\( \ I_{\mathrm {s}} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
I_{s} &=& \frac {I_{\mathrm {n}}}{%Z}\times 100 \\[ 5pt ] &=& \frac {824.8}{5.814}\times 100 \\[ 5pt ] &≒& 14186 \ \mathrm {[A]} \\[ 5pt ] &≒& 14.2 \ [\mathrm {kA}] \end{eqnarray}
\] と求められる。

(b)解答:(4)
(a)より,変圧器二次側の電流が\( \ 14.2 \ \mathrm {[kA]} \ \)であるから変圧器一次側の電流\( \ I_{1} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
I_{1}&=&14186\times \frac {210}{6600} \\[ 5pt ] &≒&451.8 \ [\mathrm {A}] \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となる。\( \ \mathrm {CT} \ \)の変流比が\( \ 75 \ \mathrm {A}/5 \ \mathrm {A} \ \)であるから,\( \ \mathrm {CT} \ \)二次側電流\( \ I_{\mathrm {2CT}} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
I_{\mathrm {2CT}}&=&\frac {5}{75}\times 451.8 \\[ 5pt ] &≒&30 \ [\mathrm {A}] \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。

※(b)しかわからない場合
本問の場合(a)の方が(b)よりも難しく,(a)が解けないと必然的に(b)が解けなくなり,\(6点+7点=13点\)をロスしてしまいます。その際にも諦めずに(a)の解答欄から(b)の答えを予測してみて下さい。具体的には,
(1)が\(1.2[\mathrm {kA}]\)の場合,
\[
1200\times \frac {210}{6600}\times \frac {5}{75}=2.5 \ [\mathrm {A}] \] (1)が\(1.7[\mathrm {kA}]\)の場合,
\[
1700\times \frac {210}{6600}\times \frac {5}{75}=3.6 \ [\mathrm {A}] \] (1)が\(5.2[\mathrm {kA}]\)の場合,
\[
5200\times \frac {210}{6600}\times \frac {5}{75}=11.0 \ [\mathrm {A}] \] (1)が\(11.7[\mathrm {kA}]\)の場合,
\[
11700\times \frac {210}{6600}\times \frac {5}{75}=24.8 \ [\mathrm {A}] \] (1)が\(14.2[\mathrm {kA}]\)の場合,
\[
14200\times \frac {210}{6600}\times \frac {5}{75}=30.1 \ [\mathrm {A}] \] となり,解答が合うのは,(1)\( \ 14.2 \ \mathrm {kA} \ \)と(2)\( \ 30 \ \mathrm {A} \ \)のみとなります。かなり裏技的な解き方ですが,この13点は合否を分けるぐらい非常に大きな点数となります。