《機械》〈回転機〉[H22:問5]三相同期電動機の特徴とトルクの調整に関する空欄穴埋問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

三相同期電動機は,\( \ 50 \ \mathrm {[Hz]} \ \)又は\( \ 60 \ \mathrm {[Hz]} \ \)の商用交流電源で駆動されることが一般的であった。 電動機としては,極数と商用交流電源の周波数によって決まる一定速度の運転となること,\( \ \fbox {  (ア)  } \ \)電流を調整することで力率を調整することができ,三相誘導電動機に比べて高い力率の運転ができることなどに特徴がある。さらに,誘導電動機に比べて\( \ \fbox {  (イ)  } \ \)を大きくできるという構造的な特徴などがあることから,回転子に強い衝撃が加わる鉄鋼圧延機などに用いられている。

しかし,商用交流電源で三相同期電動機を駆動する場合,\( \ \fbox {  (ウ)  } \ \)トルクを確保する必要がある。 近年, インバータなどパワーエレクトロニクス装置の利用拡大によって可変電圧可変周波数の電源が容易に得られるようになった。出力の電圧と周波数がほぼ比例するパワーエレクトロニクス装置を使用すれば,\( \ \fbox {  (エ)  } \ \)を変えると\( \ \fbox {  (オ)  } \ \)が変わり,このときのトルクを確保することができる。

さらに,回転子の位置を検出して電機子電流と界磁電流をあわせて制御することによって幅広い速度範囲でトルク応答性の優れた運転も可能となり,応用範囲を拡大させている。

上記の記述中の空白箇所(ア),(イ),(ウ),(エ)及び(オ)に当てはまる語句として,正しいものを組み合わせたのは次のうちどれか。
\[
\begin{array}{cccccc}
& (ア) & (イ) & (ウ) & (エ) & (オ) \\
\hline
(1) &  励 磁  &  固定子  &  過負荷  &  周波数  &  定格速度  \\
\hline
(2) &  励 磁  &  固定子  &  始 動  &  電 圧  &  定格速度  \\
\hline
(3) &  電機子  &  空げき  &  過負荷  &  電 圧  &  定格速度  \\
\hline
(4) &  電機子  &  固定子  &  始 動  &  周波数  &  同期速度  \\
\hline
(5) &  励 磁  &  空げき  &  始 動  &  周波数  &  同期速度  \\
\hline
\end{array}
\]

【ワンポイント解説】

同期電動機の特性とトルクの確保に関する問題です。
全体的にやや選択肢の絞りにくい印象の問題ですので,わかる空欄から選択肢を絞れるようになれば十分かなと思います。

1.同期機の誘導起電力
同期機の\( \ 1 \ \)相分の誘導起電力(相電圧)\( \ E \ \)は,巻線係数を\( \ K \ \),周波数を\( \ f \ \),\( \ 1 \ \)相あたりの電機子巻き数(直列巻数)を\( \ N \ \),\( \ 1 \ \)極あたりの磁極数を\( \ \phi \ \)とすると,
\[
\begin{eqnarray}
E=4.44KfN\phi \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] で求められます。これより,電圧\( \ E \ \)と周波数\( \ f \ \)の比を一定とすれば,磁束\( \ \phi \ \)をほぼ一定に保つことができることがわかるかと思います。

2.同期電動機の始動法
同期電動機停止時は,回転磁界によるトルクが\( \ \displaystyle \frac {1}{2} \ \)回転ごとに交互に入れ替わるので,平均トルクが零となります。したがってこのままでは起動しませんので,以下に示すような始動法により始動トルクを与え始動します。

①自己始動法
回転子の磁極面に施した制動巻線を利用して始動する方式です。制動巻線に発生するトルクにより始動させ,制動巻線はかご形誘導電動機の回転子と同じ原理で始動させます。

②始動電動機法
三相同期電動機に直結した誘導電動機や直流電動機を用いて同期速度付近まで加速した後,界磁電流を流して励磁し同期する方法です。始動用の誘導電動機は,同期電動機よりも磁極数を\( \ 2 \ \)極少ないものを選定して,同期速度以上に加速できるようにします。

③サイリスタ始動法
同期電動機をあらかじめ励磁しておき,サイリスタ変換装置により電動機の周波数を変化させることにより始動する方法です。

④同期始動法
同期電動機と同期発電機を停止状態で接続し,同期発電機を始動して同期速度まで回転数を上昇させる方式です。ほかの同期発電機が使用できる場合に限り適用されます。

⑤低周波始動法
周波数を可変させることができる電源を使用して始動する方式です。低周波のうちに同期化した後,励磁を与えて加速していきます。

3.同期機の\( \ \mathrm {V} \ \)曲線
同期機の界磁電流と電機子電流の関係である\( \ \mathrm {V} \ \)曲線(位相特性曲線)は図2のようになります。
力率\( \ 1 \ \)を最小値として界磁電流を大きくすれば,電動機の場合進み位相となり,界磁電流を小さくすれば遅れ位相となります。また,発電機の場合は逆となります。
また,負荷が大きくなると曲線は上側に移動し,同じ力率においては電機子電流が大きくなります。

【解答】

解答:(5)
(ア)
ワンポイント解説「3.同期機の\( \ \mathrm {V} \ \)曲線」の通り,同期機は励磁電流を調整することで,力率を調整することができます。

(イ)
一般に回転子の空げきが大きくなり磁気抵抗が増加すると,同じ大きさを磁束を発生させるためには大きな励磁電流が必要となります。同期電動機は,励磁回路が独立していることから空げきを大きくし励磁電流が増加しても大きな問題は発生しないので,回転子に強い衝撃が加わる鉄鋼圧延機などに使用されます。

(ウ)
ワンポイント解説「2.同期電動機の始動法」の通り,三相同期電動機はそのままでは始動できないので,何らかの形で始動トルクを確保する必要があります。

(エ)
ワンポイント解説「1.同期機の誘導起電力」及び「2.同期電動機の始動法」の通り,低周波始動法では周波数を変えて始動することになります。

(オ)
同期速度\( \ N_{\mathrm {s}} \ \mathrm {[{min}^{-1}]} \ \)は,\( \ \displaystyle N_{\mathrm {s}}=\frac {120f}{p} \ \)の関係があるので,周波数\( \ f \ \)に比例して同期速度が変わり,トルクを確保することができるようになります。