《機械》〈回転機〉[H23:問2]誘導電動機の始動法に関する空欄穴埋問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

次の文章は,誘導電動機の始動に関する記述である。

a.三相巻線形誘導電動機は,二次回路を調整して始動する。トルクの比例推移特性を利用して,トルクが最大値となる滑りを  (ア)  付近になるようにする。具体的には,二次回路を  (イ)  で引き出して抵抗を接続し,二次抵抗値を定格運転時よりも大きな値に調整する。

b.三相かご形誘導電動機は,一次回路を調整して始動する。具体的には,始動時は Y 結線,通常運転時は Δ 結線にコイルの接続を切り替えてコイルに加わる電圧を下げて始動する方法,  (ウ)  を電源と電動機の間に挿入して始動時の端子電圧を下げる方法,及び  (エ)  を用いて電圧と周波数の両者を下げる方法がある。

c.三相誘導電動機では,三相コイルが作る磁界は回転磁界である。一方,単相誘導電動機では,単相コイルが作る磁界は交番磁界であり,主コイルだけでは始動しない。そこで,主コイルとは  (オ)  が異なる電流が流れる補助コイルやくま取りコイルを固定子に設けて,回転磁界や移動磁界を作って始動する。

上記の記述中の空白箇所(ア),(イ),(ウ),(エ)及び(オ)に当てはまる組合せとして,正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

(1)1      (2)0        (3)1   (4)0        (5)1     

【ワンポイント解説】

誘導電動機の始動法に関する問題です。
覚える内容が多く最初はなかなか理解が進まないかもしれませんが,最初から完璧を求めるのではなく,概要を理解するようにした方が結果的に近道になるかと思います。

1.全電圧始動法
電動機に始動装置を設けずに全電圧を印加して始動する方法です。始動電流が大きいため 3.7 kW 以下の小容量の電動機の場合にしか用いられません。

2. YΔ 始動法
始動時は Y 巻線,定格時には Δ 巻線で運転する方法です。 Y 巻線は Δ 巻線と比較して電圧が 13 倍となるので,それぞれの始動電流の大きさの比は,
IY=V3Z=V3ZIΔ=3VZIYIΔ=V3Z3VZ=13

となり,始動トルクの比は,
TYTΔ=(V3)2V2=13
となります。

3.補償器始動法
始動時のみ,三相単巻変圧器を用いて,変圧器のタップを切り替えることによって始動する方法です。電圧を 1n 倍にすると,始動電流と始動トルクをともに 1n2 倍にすることができます。

4.リアクトル始動法
始動時のみ,電動機と直列にリアクトルを接続して始動する方法で,始動時の端子電圧を 1n 倍にすると,始動電流を 1n 倍,始動トルクを 1n2 倍にすることができます。

5.巻線形誘導電動機の始動法(二次抵抗法)
二次巻線にスリップリングを介し,外部可変抵抗を接続して始動する方法で,比例推移の原理を利用して,始動電流を抑制します。

6.特殊かご形電動機
始動電流を抑制するため回転子側の形状を工夫した電動機で,これまで説明した方法と切り口を変えた対策を講じた方法です。

①深溝かご形電動機
深溝かご形回転子の概要を図1に示します。図1に示すように深溝かご形回転子は回転子に深いスロットを設け,そこに導体を入れたような構造となっています。始動時回転子内の漏れ磁束は外側ほど小さくなり,始動時ほとんどの電流が導体の外側を流れ,抵抗が大きくなります。その後回転数が上がると,電流は一様に分布するようになり,抵抗が小さくなります。

②二重かご形電動機
二重かご形回転子の概要を図2に示します。図に示すように,二重かご形回転子は,内側と外側に二つの導体を入れ,外側の方を小さく,すなわち高抵抗となるようにします。始動時,深溝かご形回転子と同様に,外側ほど漏れ磁束が小さいので,ほとんどの電流が外側を流れます。その後,回転数が大きくなると,低抵抗である内側の導体を流れるようになります。

7.単相誘導電動機の始動方法
単相誘導電動機は三相誘導電動機と異なり,始動時のトルクが零であるため,何らかの形で回転磁界を発生させ始動する必要があります。

①くま取りコイル形
主磁極の鉄心の端にスロットを設け短絡コイルを巻き,コイルの磁束の変化を妨げる特性を利用して主磁束 ϕA と位相の異なる磁界 ϕB を発生し電動機を回転させます。 ϕB の方が位相が遅れ,あたかも磁束が移動しているようになるため,回転トルクは図の通りくま取りコイルのある側に向かい発生します。

②分相始動形
図のように電気的に π2[rad] ずらした位置に,抵抗が大きくインダクタンスが小さい補助巻線を設け,主巻線電流と補助巻線電流の間に位相差が生じ,回転磁界を得る方法です。回転数が大きくなると,遠心力スイッチにより補助巻線が切り離されます。

③コンデンサ始動形
図のように分相始動形にコンデンサを追加したような方式です。電源電圧 V よりも補助巻線電流の位相が進みになり,主巻線電流と補助巻線電流の間の位相差が π2[rad] に近づき,より理想的な回転磁界を得られるようになります。

【解答】

解答:(1)
(ア)
誘導機の同期速度が Ns ,回転数が N である時,誘導機の滑り s は,
s=NsNNs

で定義され,始動時は回転数 N  0 なので,滑り s  1 となります。したがって,始動時のトルクを大きくするためには,トルクの最大値となる滑りを 1 付近にすればよいことがわかります。

(イ)
ワンポイント解説「5.巻線形誘導電動機の始動法(二次抵抗法)」の通り,巻線形誘導電動機は二次回路をスリップリングで引き出して抵抗を接続し始動する方法がとられます。

(ウ)
ワンポイント解説「3.補償器始動法」の通り,かご形誘導電動機は始動補償器と呼ばれる単巻変圧器を電源と電動機の間に挿入して始動電圧を下げて始動する方法があります。

(エ)
パワーエレクトロニクスの向上に伴い,電圧と周波数の両方を下げるインバータを使用して始動する方法も採用されます。

(オ)
ワンポイント解説「7.単相誘導電動機の始動方法」の通り,単相誘導電動機では電気的に位相をずらし,回転磁界を発生させる始動法が採用されます。