《機械》〈パワーエレクトロニクス〉[R3:問11]昇降圧チョッパに関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

図は昇降圧チョッパを示している。スイッチ\( \ \mathrm {Q} \ \),ダイオード\( \ \mathrm {D} \ \),リアクトル\( \ \mathrm {L} \ \),コンデンサ\( \ \mathrm {C} \ \)を用いて,図のような向きに定めた負荷抵抗\( \ \mathrm {R} \ \)の電圧\( \ v_{\mathrm {0}} \ \)を制御するためのものである。

これらの回路で,直流電源\( \ \mathrm {E} \ \)の電圧は一定とする。また,回路の時定数は,スイッチ\( \ \mathrm {Q} \ \)の動作周期に対して十分に大きいものとする。回路のスイッチ\( \ \mathrm {Q} \ \)の通流率\( \ \gamma \ \)とした場合,回路の定常状態での動作に関する記述として,誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

(1) \( \ \mathrm {Q} \ \)がオンのときは,電源\( \ \mathrm {E} \ \)からのエネルギーが\( \ \mathrm {L} \ \)に蓄えられる。

(2) \( \ \mathrm {Q} \ \)がオフのときは,\( \ \mathrm {L} \ \)に蓄えられたエネルギーが負荷抵抗\( \ \mathrm {R} \ \)とコンデンサ\( \ \mathrm {C} \ \)に\( \ \mathrm {D} \ \)を通して放出される。

(3) 出力電圧\( \ v_{\mathrm {0}} \ \)の平均値は,\( \ \gamma \ \)が\( \ 0.5 \ \)より小さいときは昇圧チョッパ,\( \ 0.5 \ \)より大きいときは降圧チョッパとして動作する。

(4) 出力電圧\( \ v_{\mathrm {0}} \ \)の平均値は,図の\( \ v_{\mathrm {0}} \ \)の向きを考慮すると正になる。

(5) \( \ \mathrm {L} \ \)の電圧\( \ v_{\mathrm {L}} \ \)の平均電圧は,\( \ \mathrm {Q} \ \)のスイッチング一周期で\( \ 0 \ \)となる。

【ワンポイント解説】

昇降圧チョッパに関する問題です。
\( \ 3 \ \)種では降圧チョッパの出題が圧倒的に多く,昇降圧チョッパの出題は少ないですが,考え方は同じです。
平均電圧の式を丸暗記するのではなく,スイッチング素子がオンオフしたとき,それぞれどのような電流の流れとなるか考えることが重要です。

1.昇降圧チョッパ
スイッチ\( \ \mathrm {S} \ \)がオンのとき,図1-1のように電源からの電流はスイッチ\( \ \mathrm {S} \ \)を通り,リアクトル\( \ L \ \)側にエネルギーが蓄えられますが,ダイオード\( \ D \ \)は逆向きなので電流が流れません。また,コンデンサ\( \ C \ \)に蓄えられている電荷が出力側に流れます。
スイッチ\( \ \mathrm {S} \ \)がオフになると,図1-2のように電源から電流は流れず,リアクトル\( \ L \ \)に蓄えられていたエネルギーが放出され,コンデンサ\( \ C \ \)と出力側に電流が流れます。
したがって,コンデンサ\( \ C \ \)の容量が十分に大きければ,出力電流はほぼ一定の値となります。
定常状態においてはリアクトルに蓄えられるエネルギーと放出されるエネルギーが等しいので,スイッチ\( \ \mathrm {S} \ \)のオン時間を\( T_{\mathrm {on}} \ \),オフ時間を\( T_{\mathrm {off}} \ \),出力電圧\( \ v_{\mathrm {0}} \ \)とすると,
\[
\begin{eqnarray}
EiT_{\mathrm {on}} &=& v_{\mathrm {0}} iT_{\mathrm {off}} \\[ 5pt ] ET_{\mathrm {on}} &=&v_{\mathrm {0}} T_{\mathrm {off}} \\[ 5pt ] v_{\mathrm {0}} &=&\frac {T_{\mathrm {on}}}{T_{\mathrm {off}}}E \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,通流率\( \ \displaystyle \gamma =\frac {T_{\mathrm {on}}}{T_{\mathrm {on}}+T_{\mathrm {off}}} \ \)を用いて表すと,
\[
\begin{eqnarray}
v_{\mathrm {0}} &=&\frac {T_{\mathrm {on}}}{T_{\mathrm {off}}}E \\[ 5pt ] &=&\frac {\displaystyle \frac {T_{\mathrm {on}}}{T_{\mathrm {on}}+T_{\mathrm {off}}}}{\displaystyle \frac {T_{\mathrm {off}}}{T_{\mathrm {on}}+T_{\mathrm {off}}}}E \\[ 5pt ] &=&\frac {\displaystyle \frac {T_{\mathrm {on}}}{T_{\mathrm {on}}+T_{\mathrm {off}}}}{\displaystyle \frac {T_{\mathrm {on}}+T_{\mathrm {off}}-T_{\mathrm {on}}}{T_{\mathrm {on}}+T_{\mathrm {off}}}}E \\[ 5pt ] &=&\frac {\displaystyle \frac {T_{\mathrm {on}}}{T_{\mathrm {on}}+T_{\mathrm {off}}}}{\displaystyle 1-\frac {T_{\mathrm {on}}}{T_{\mathrm {on}}+T_{\mathrm {off}}}}E \\[ 5pt ] &=&\frac {\gamma }{\displaystyle 1-\gamma }E \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。


【解答】

解答:(3)
(1)正しい
ワンポイント解説「1.昇降圧チョッパ」の通り,\( \ \mathrm {Q} \ \)がオンのときは,電源\( \ \mathrm {E} \ \)からのエネルギーが\( \ \mathrm {L} \ \)に蓄えられます。

(2)正しい
ワンポイント解説「1.昇降圧チョッパ」の通り,\( \ \mathrm {Q} \ \)がオフのときは,\( \ \mathrm {L} \ \)に蓄えられたエネルギーが負荷抵抗\( \ \mathrm {R} \ \)とコンデンサ\( \ \mathrm {C} \ \)に放出されます。また,ダイオード\( \ \mathrm {D} \ \)は順方向となるため導通します。

(3)誤り
ワンポイント解説「1.昇降圧チョッパ」の通り,出力電圧\( \ v_{\mathrm {0}} \ \)の平均値は,通流率\( \ \displaystyle \gamma \ \)を用いて,
\[
\begin{eqnarray}
v_{\mathrm {0}} &=&\frac {\gamma }{\displaystyle 1-\gamma }E \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となるため,\( \ \displaystyle \gamma \ \)が\( \ 0.5 \ \)より大きいときは,\( \ v_{\mathrm {0}} \gt E \ \)となり昇圧チョッパ,\( \ \displaystyle \gamma \ \)が\( \ 0.5 \ \)より小さいときは,\( \ v_{\mathrm {0}} \lt E \ \)となり降圧チョッパとして動作します。
通流率が大きい方が\( \ \mathrm {Q} \ \)オン時のリアクトルに蓄えられるエネルギーが大きいことからも想像がつきやすいかと思います。

(4)正しい
ワンポイント解説「1.昇降圧チョッパ」の通り出力電流の向きが下から上なので,出力電圧\( \ v_{\mathrm {0}} \ \)の向きは図の向きが正となります。

(5)正しい
リアクトル\( \ \mathrm {L} \ \)は蓄えられるエネルギーと放出するエネルギーが等しいため,平均電圧は\( \ \mathrm {Q} \ \)のスイッチング一周期で\( \ 0 \ \)となります。