《理論》〈電子理論〉[H20:問13]トランジスタの接地方式の異なる基本増幅回路に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

トランジスタの接地方式の異なる基本増幅回路を図1,図2及び図3に示す。以下の\( \ \mathrm {a}~\mathrm {d} \ \)に示す回路に関する記述として,正しいものを組み合わせたのは次のうちどれか。

\( \ \mathrm {a}. \ \)図1の回路では,入出力信号の位相差は\( \ 180 \ \mathrm {[^{\circ }]} \ \)である。

\( \ \mathrm {b}. \ \)図2の回路は,エミッタ接地増幅回路である。

\( \ \mathrm {c}. \ \)図2の回路は,エミッタホロワとも呼ばれる。

\( \ \mathrm {d}. \ \)図3の回路で,エミッタ電流及びコレクタ電流の変化分の比\( \ \displaystyle \left| \frac {\Delta I_{C}}{\Delta I_{E}}\right| \ \)の値は,約\( \ 100 \ \)である。

ただし,\( \ I_{B} \ \),\( \ I_{C} \ \),\( \ I_{E} \ \)は直流電流,\( \ v_{i} \ \),\( \ v_{o} \ \)は入出力信号,\( \ R_{L} \ \)は負荷抵抗,\( \ V_{BB} \ \),\( \ V_{CC} \ \)は直流電源を示す。

 (1) \( \ \mathrm {a} \ \)と\( \ \mathrm {b} \ \)  (2) \( \ \mathrm {a} \ \)と\( \ \mathrm {c} \ \)  (3) \( \ \mathrm {a} \ \)と\( \ \mathrm {d} \ \)  (4) \( \ \mathrm {b} \ \)と\( \ \mathrm {d} \ \)  (5) \( \ \mathrm {c} \ \)と\( \ \mathrm {d} \ \)

【ワンポイント解説】

トランジスタの接地方式の違いに関する問題です。
電子回路の問題は,受験生が手薄となりやすい分野です。細かな動作メカニズムや原理は大丈夫なので,概要をおさえておくようにして下さい。

1.エミッタ接地回路の特徴
エミッタ接地回路は図4に示すような回路で,入力にベース,出力にコレクタをとります。電圧電流とも増幅するため電力利得が高い増幅回路の基本となる回路で,電験でも最も出題されやすい回路となります。

・電圧増幅率は大きい
 入力のベース電圧がわずかに変動することでベース電流→コレクタ電流が非常に大きくなり,コレクタの抵抗での電圧降下が大きくなるため,電圧増幅率は大きくなります。

・電流増幅率は大きい
 ベース電流に対し,コレクタ電流は大きいため,入力電流に対する出力電流は大きくなります。

・入力インピーダンスは小さい
 ベース電圧が大きくなると,その特性曲線からベース電流が非常に大きくなります。したがって,電圧変動に対し電流変動が大きいため入力インピーダンスは小さくなります。

・出力インピーダンスは大きい
 トランジスタの特性曲線の飽和特性により,コレクタ電圧が増加してもコレクタ電流はそれほど変化しないため,出力インピーダンスは大きくなります。

・出力が逆位相
 図4の回路の電流の流れを見ると,入力電圧と出力の電圧降下の位相が逆位相となっていることがわかります。

・高周波特性が悪い
 エミッタ接地回路では高周波領域で電圧増幅度が下がるミラー効果と呼ばれる特性があります。

2.ベース接地回路の特徴
ベース接地回路は図5に示すような回路で,ベースを接地しているためエミッタ接地回路の回路図を少し変形しベースを真ん中に持ってきたような回路図となり,入力にエミッタ,出力にエミッタをとる回路となります。
以下の特徴があり,高周波特性が良いため,高周波増幅回路で使用されることがあります。

・電圧増幅率は大きい
 入力のエミッタ電圧は変動が少ないのに対し,コレクタの抵抗での電圧降下はコレクタ電流により変動が大きくなるため,電圧増幅率は大きくなります。

・電流増幅率は\( \ 1 \ \)程度
 エミッタ電流に対し,コレクタ電流はベース電流を差し引いたものであるため,電流増幅率は約\( \ 1 \ \)(よりやや小さい)程度となります。

・入力インピーダンスは小さい
 エミッタ電圧はベース電圧からベースエミッタ間電圧(ほぼ一定と考える)を差し引いたものとなり,入力電流変化に対し電圧変化はほとんどないため入力インピーダンスは小さくなります。

・出力インピーダンスは大きい
 トランジスタの特性曲線の飽和特性により,コレクタ電圧が増加してもコレクタ電流はそれほど変化しないため,出力インピーダンスは大きくなります。

・出力が同相
 図5の回路の電流の流れを見ると,入力電圧と出力電圧が同位相であることがわかります。

・高周波特性が非常に良い
 ベース接地回路にはエミッタ接地回路にあるようなミラー効果はなく,高周波特性が良いという特徴があります。

3.コレクタ接地回路の特徴
コレクタ接地回路は図6に示すような回路で,入力にベース,出力にエミッタをとる回路となり,出力電圧のエミッタ電圧が入力電圧のベース電圧に追従することから,エミッタフォロワと呼ばれます。
以下のような特徴があり,回路間の影響を抑制するための緩衝増幅回路(バッファ)として利用されることがあります。

・電圧増幅率は\( \ 1 \ \)程度
 入力と出力の電圧差は,ベース-エミッタ間電圧を差し引いたものなので,十分に小さいとみなせ,入力電圧に対する出力電圧は約\( \ 1 \ \)(よりやや小さい)程度となります。

・電流増幅率は大きい
 ベース電流に対し,エミッタ電流は大きいため,入力電流に対する出力電流は大きくなります。

・入力インピーダンスは大きい
 ベース電圧が大きくなると,ベース電流が大きくなると同時にエミッタ電流が増えエミッタの抵抗での電圧降下が大きくなり,ベース-エミッタ間電圧が小さくなり,ベース電流増加が抑えられます。電流変動に対し電圧変動が大きいため入力インピーダンスは大きいということになります。

・出力インピーダンスは小さい
 エミッタ電位が上昇すると,ベース-エミッタ間電圧が小さくなり,ベース電流が抑えられ,エミッタ電流が小さくなり,エミッタ電位が下がります。電流変動に対し電圧変動が小さいため出力インピーダンスは小さいということになります。

・出力が同相
 図6の回路の電流の流れを見ればわかりますが,入力と出力の電圧は同相となります。

・高周波特性が良い
 エミッタ接地回路では高周波領域で電圧増幅度が下がるという特性がありますが,コレクタ接地回路にはこのような特性はありません。

【解答】

解答:(2)
a.正しい
 ワンポイント解説「1.エミッタ接地回路の特徴」の通り,図1はエミッタ接地増幅回路であるため,入出力信号の位相差は\( \ 180 \ \mathrm {[^{\circ }]} \ \)となります。

b.誤り
 ワンポイント解説「3.コレクタ接地回路の特徴」の通り,図2はコレクタ接地増幅回路となります。

c.正しい
 ワンポイント解説「3.コレクタ接地回路の特徴」の通り,コレクタ接地回路はエミッタホロワとも呼ばれます。

d.誤り
 ワンポイント解説「2.ベース接地回路の特徴」の通り,図3はベース接地増幅回路であり,ベース接地増幅回路の電流増幅率は約\( \ 1 \ \)となります。