《電力》〈送電〉[R05下:問10]地中送電線路の特徴や布設方法等に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

我が国の地中送電線路に関する記述として,誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

(1) 地中送電線路は,電力ケーブルを地中に埋設して送電する方式である。同じ送電容量の架空送電線路と比較して建設費が高いが,都市部においては用地の制約や,保安,景観などの点から地中送電線路が採用される傾向にある。

(2) 主な電力ケーブルには,架橋ポリエチレンを絶縁体とした\( \ \mathrm {CV} \ \)ケーブルと,絶縁紙と絶縁油を組み合わせた油浸紙を絶縁体とした\( \ \mathrm {OF} \ \)ケーブルがある。\( \ \mathrm {OF} \ \)ケーブルには油通路が設けられており,絶縁油の加圧によりボイドの発生を抑制して絶縁強度を確保するための給油設備が必要である。

(3) 電力ケーブルの電力損失において,抵抗損とシース損はケーブルの導体に流れる電流に起因した損失であり,誘電体損は電圧に対して絶縁体に流れる同位相の電流成分に起因した損失である。\( \ \mathrm {CV} \ \)ケーブルと\( \ \mathrm {OF} \ \)ケーブルの誘電体損では,一般に\( \ \mathrm {OF} \ \)ケーブルの方が小さい。

(4) 電力ケーブルの布設方法において,直接埋設式は最も工事費が安く,工期が短いが,ケーブル外傷等の被害のリスクが高く,ケーブル布設後の増設も難しい。一方で,管路式と暗きょ式(洞道式)は,ケーブル外傷等のリスク低減やケーブル布設後の増設にも優れた布設方式である。中でも暗きょ方式は,電力ケーブルの熱放散と保守の面で最も優れた布設方式である。

(5) 地中送電線路で地絡事故や断線事故が発生した際には,故障点位置標定が行われる。故障点位置標定法としては,地絡事故にはパルスレーダ法とマーレーループ法が適用でき,断線事故にはパルスレーダ法と静電容量測定法が適用できる。

【ワンポイント解説】

地中送電線路の幅広い分野からの出題です。
問題文は少し長いですが,誤りの箇所は比較的見つけやすい問題かと思います。落ち着いて一文一文見ていくようにして下さい。

1.地中送電の特徴
【長所】
 ・自然災害による影響や他接触物による外部事故が少ない。
 ・都市の景観が保たれる。
 ・露出充電部が少ないので,感電や火災の危険性が低い。
 ・通信線への誘導障害が少ない。

【短所】
 ・工期が長くなり,建設費も高くなる。
 ・事故箇所の特定が難しく,事故復旧に時間がかかる。
 ・放熱性が低いため,導体の太さが同じ場合,送電容量が小さくなる。
 ・ケーブルの場合静電容量が数十倍となり,充電電流が大きい。

2.\( \ \mathrm {CV} \ \)ケーブルの特徴
\( \ \mathrm {CV} \ \)ケーブルの特徴のうち,\( \ \mathrm {OF} \ \)ケーブルと比較した特徴は以下の通りとなります。

①絶縁体に架橋ポリエチレンを使用し,\( \ \mathrm {OF} \ \)ケーブルのように絶縁油を使用しないため,給油設備を必要とせず,火災のリスクも少ない。

②連続使用時の最高許容温度が\( \ 90 \ \)℃と高いので,許容電流が大きくなり,送電容量が大きくなる。

③誘電正接\( \ \mathrm {tan} \delta \ \)(誘電正接)や比誘電率が小さいため誘電体損失や充電電流が小さくなる。

④絶縁体自体を薄くでき軽量であるため,取り回しが良い。

⑤耐薬品性,耐摩耗性,耐衝撃性に優れる。

⑥水分が含まれると水トリーと呼ばれる樹枝状に絶縁劣化する現象が発生する。

3.地中送電線の布設方式
①直接埋設式
 コンクリートトラフにケーブルを入れ,地上から規定された深さまで埋設し土で埋める方式です。
 <長所>
 ・工事が簡単で,工期が短くなり,工事費も少ない
 ・放熱性が良い
 <短所>
 ・作業を行うためには掘り返さないといけない
 ・事故復旧に時間がかかる

②管路式
 穴を空けたコンクリート内にケーブルを布設する方法です。
 <長所>
 ・直接埋設式に比べ,保守点検が容易
 ・増設工事等が比較的容易
 ・外傷を受けにくい
 <短所>
 ・直接埋設式に比べ,工事費が高い
 ・放熱性が悪いため,許容電流が小さくなる

③暗きょ式
 コンクリートのトンネルの中にケーブルを布設する方式です。
 <長所>
 ・保守点検が容易
 ・工事が容易
 ・放熱性が良い
 ・ガス管や通信線,水道管等も布設できる(共同溝)
 <短所>
 ・建設費が高く,工期も長くなる

【解答】

解答:(3)
(1)正しい
ワンポイント解説「1.地中送電の特徴」の通り,地中送電線路は同じ送電容量の架空送電線路と比較して建設費が高いですが,都市部においては用地の制約や,保安,景観などの点から採用される傾向にあります。

(2)正しい
ワンポイント解説「2.\( \ \mathrm {CV} \ \)ケーブルの特徴」の通り,主な電力ケーブルには,\( \ \mathrm {CV} \ \)ケーブル\( \ \mathrm {OF} \ \)ケーブルがあり,\( \ \mathrm {OF} \ \)ケーブルには油通路が設けられ,給油設備が必要となります。

(3)誤り
ワンポイント解説「2.\( \ \mathrm {CV} \ \)ケーブルの特徴」の通り,ケーブルの損失には抵抗損,シース損,誘電体損がありますが,\( \ \mathrm {CV} \ \)ケーブルと\( \ \mathrm {OF} \ \)ケーブルの誘電体損では,一般に\( \ \mathrm {OF} \ \)ケーブルの方が大きいです。ケーブルの損失に関しては令和3年問11等でも解説していますので,見ておくと良いかと思います。

(4)正しい
ワンポイント解説「3.地中送電線の布設方式」の通り,電力ケーブルの布設方法には,直接埋設式,管路式,暗きょ式があり,直接埋設式は最も工事費が安く,工期が短いですが,ケーブル外傷等の被害のリスクが高く,増設も難しいです。一方,管路式と暗きょ式(洞道式)は,ケーブル外傷等のリスク低減やケーブル布設後の増設にも優れた布設方式です。また,暗きょ方式は電力ケーブルの熱放散と保守の面で最も優れた布設方式となります。

(5)正しい
問題文の通り,地中送電線路で地絡事故や断線事故が発生した際には,故障点位置標定が行われ,地絡事故にはパルスレーダ法とマーレーループ法が適用でき,断線事故にはパルスレーダ法と静電容量測定法が適用できます。故障点位置標定に関する内容は令和4年上期問11で詳しく説明しています。