《理論》〈電子理論〉[R06上:問11]バイポーラトランジスタと電界効果トランジスタに関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

バイポーラトランジスタと電界効果トランジスタ\( \ \left( \mathrm {FET} \right) \ \)に関する記述として,誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

(1) バイポーラトランジスタは,消費電力が\( \ \mathrm {FET} \ \)より大きい。

(2) バイポーラトランジスタは,静電気に対して\( \ \mathrm {FET} \ \)より破壊されにくい。

(3) バイポーラトランジスタの入力インピーダンスは,\( \ \mathrm {FET} \ \)のそれよりも低い。

(4) バイポーラトランジスタは電圧制御素子,\( \ \mathrm {FET} \ \)は電流制御素子といわれる。

(5) バイポーラトランジスタのコレクタ電流は自由電子及び正孔の両方が関与し,\( \ \mathrm {FET} \ \)のドレーン電流は自由電子又は正孔のどちらかが関与する。

【ワンポイント解説】

バイポーラトランジスタと電界効果トランジスタの比較に関する問題です。
各トランジスタの動作原理を理解することで,それぞれの特徴も自ずと理解できるようになりますので,各選択肢の内容を丸暗記するよりもオススメです。
本問は平成15年問10からの再出題となります。

1.バイポーラトランジスタの動作原理
バイポーラトランジスタ(\( \ \mathrm {npn} \ \)形)は,図1のように\( \ 2 \ \)つの\( \ \mathrm {n} \ \)形半導体に\( \ \mathrm {p} \ \)形半導体を挟んだような構造をしており,\( \ \mathrm {p} \ \)形半導体にベース\( \ \mathrm {B} \),\( \ \mathrm {n} \ \)形半導体にコレクタ\( \ \mathrm {C} \ \)とエミッタ\( \ \mathrm {E} \ \)を取り付けた素子です。

図1のようにベース-エミッタ間電圧\( \ V_{\mathrm {BE}} \ \)が零でベース電流\( \ I_{\mathrm {B}} \ \)が流れていないとき,コレクタ-エミッタ間電圧\( \ V_{\mathrm {CE}} \ \)を加えても,\( \ \mathrm {pn} \ \)接合部の空乏層により,キャリヤは移動できず電流は流れません。
この状態で図2のように,ベース-エミッタ間電圧\( \ V_{\mathrm {BE}} \ \)を加えベース電流\( \ I_{\mathrm {B}} \ \)を流すと,エミッタ側から移動する一部の自由電子はベース電流\( \ I_{\mathrm {B}} \ \)により供給される正孔と再結合しますが,ほとんどは薄い\( \ \mathrm {p} \ \)形半導体をすり抜けコレクタ側に移動します。これにより,コレクタ電流\( \ I_{\mathrm {C}} \ \)が流れるようになります。
このように,バイポーラトランジスタは小さなベース電流\( \ I_{\mathrm {B}} \ \)により,比較的大きなコレクタ電流\( \ I_{\mathrm {C}} \ \)を制御することができます。

2.接合形\( \ \mathrm {FET} \ \)の動作原理
接合形\( \ \mathrm {FET} \ \)(\( \ \mathrm {n} \ \)チャネル)は,図3のように\( \ \mathrm {n} \ \)形半導体と\( \ \mathrm {p} \ \)形半導体を接合し,\( \ \mathrm {n} \ \)形半導体にソース\( \ \mathrm {S} \ \)とドレーン\( \ \mathrm {D} \),\( \ \mathrm {p} \ \)形半導体にゲート\( \ \mathrm {G} \ \)を取り付けた素子です。

図3に示すように,ゲート-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {GS}} \ \)が零でドレーン-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {DS}} \ \)を加えると,\( \ \mathrm {n} \ \)形半導体内のキャリヤ(電子)が移動することでドレーン電流\( \ I_{\mathrm {D}} \ \)が流れます。
しかしながら,図4に示すようにゲート-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {GS}} \ \)に逆電圧を加えると,\( \ \mathrm {pn} \ \)接合部に空乏層が形成されるので,ドレーン-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {DS}} \ \)を加えても\( \ \mathrm {n} \ \)形半導体の流路が狭くなり,ドレーン電流\( \ I_{\mathrm {D}} \ \)が流れにくくなります。
このように,ゲート-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {GS}} \ \)の大きさを変化させることによりドレーン電流\( \ I_{\mathrm {D}} \ \)が制御できる素子となります。

3.\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)の動作原理
\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)(\( \ \mathrm {n} \ \)チャネル)は,図5のように\( \ \mathrm {p} \ \)形基板表面に\( \ \mathrm {n} \ \)形のソース\( \ \mathrm {S} \ \)とドレーン\( \ \mathrm {D} \ \)を形成し,ゲート\( \ \mathrm {G} \ \)を電子や正孔を通さない薄いゲート酸化膜を介して形成する素子です。

図5のように,ゲート-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {GS}} \ \)が零のとき,ドレーン-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {DS}} \ \)を加えても,\( \ \mathrm {p} \ \)形基板によりドレーン-ソース間は導通せず,ドレーン電流\( \ I_{\mathrm {D}} \ \)は流れません。
図6のように,ゲート-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {GS}} \ \)を加えると,ゲート電極に電子が引き寄せられ,疑似的な\( \ \mathrm {n} \ \)形の層ができ,ドレーン-ソース間が導通するようになり,ドレーン電流\( \ I_{\mathrm {D}} \ \)が流れるようになります。そのままドレーン-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {DS}} \ \)を大きくしていっても,ある値を上限に\( \ \mathrm {n} \ \)層の導通路の幅が支配的となり,ドレーン電流\( \ I_{\mathrm {D}} \ \)は大きくなりません。
一方,ゲート-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {GS}} \ \)を大きくすると,\( \ \mathrm {n} \ \)層の導通路が大きくなるので,ドレーン電流\( \ I_{\mathrm {D}} \ \)が大きくなります。
したがって,ドレーン電流\( \ I_{\mathrm {D}} \ \)はゲート-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {GS}} \ \)でコントロールできることがわかります。

【解答】

解答:(2)
(1)正しい
問題文の通り,電界効果トランジスタのゲートには電流が流れませんが,バイポーラトランジスタにはベース電流が流れ,消費電力も大きくなります。

(2)正しい
問題文の通り,電界効果トランジスタはゲート酸化膜によりゲートに電流を流さないようにしていますが,この部分が静電気により破壊されてしまう可能性があります。

(3)正しい
問題文の通り,入力インピーダンス(=入力電圧/入力電流)はバイポーラトランジスタの方が小さいです。電界効果トランジスタは原理的には入力電流は零であるため,入力インピーダンスは非常に大きくなります。

(4)誤り
ワンポイント解説「1.バイポーラトランジスタの動作原理」「2.接合形\( \ \mathrm {FET} \ \)の動作原理」及び「3.\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)の動作原理」の通り,バイポーラトランジスタはベース電流で制御する電流制御素子,\( \ \mathrm {FET} \ \)はゲート電圧で制御する電圧制御素子となります。

(5)正しい
問題文の通り,バイポーラトランジスタのコレクタ電流は自由電子及び正孔の両方が関与し,\( \ \mathrm {FET} \ \)のドレーン電流は自由電子又は正孔のどちらかが関与します。したがって,バイポーラトランジスタに対し\( \ \mathrm {FET} \ \)はユニポーラトランジスタと呼ばれることがあります。ただし,正確な理解にはエネルギーバンド構造の理解が必要なため,原理を理解したい場合には専門書で学習して下さい。