《電力》〈原子力〉[R3:問5]日本で使用されている原子力発電の構造や特徴に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

原子力発電に関する記述として,誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

(1) 原子力発電は,原子燃料の核分裂により発生する熱エネルギーで水を蒸気に変え,その蒸気で蒸気タービンを回し,タービンに連結された発電機で発電する。

(2) 軽水炉は,減速材に黒鉛,冷却材に軽水を使用する原子炉であり,原子炉圧力容器の中で直接蒸気を発生させる沸騰水型と,別置の蒸気発生器で蒸気を発生させる加圧水型がある。

(3) 軽水炉は,天然ウラン中のウラン\( \ 235 \ \)の濃度を\( \ 3 ~ 5 \ \mathrm {%} \ \)程度に濃縮した低濃縮ウランを原子燃料として用いる。

(4) 核分裂反応を起こさせるために熱中性子を用いる原子炉を熱中性子炉といい,軽水炉は熱中性子炉である。

(5) 沸騰水型原子炉の出力調整は,再循環ポンプによる冷却材再循環流量の調節と制御棒の挿入及び引き抜き操作により行われ,加圧水型原子炉の出力調整は,一次冷却材中のほう素濃度の調節と制御棒の挿入及び引き抜き操作により行われる。

【ワンポイント解説】

軽水炉の原子力発電の構造や特徴に関する問題です。
出題形式は違いますが,平成27年問4にも類題が出題されており,過去問を勉強された方であれば難なく解ける問題であると思います。

1.原子炉での核分裂反応
原子燃料であるウランは核分裂性物質であるウラン\( \ 235 \ \)と中性子を吸収して核分裂性物質になるウラン\( \ 238 \ \)があり,それぞれの核分裂反応のイメージは図1及び図2に示すような形となります。

①ウラン\( \ 235 \ \)の核分裂反応
核分裂性物質であるウラン\( \ 235 \ \)は熱中性子が衝突することで,核分裂が発生し,その時にエネルギーを出すと同時に放射性物質と高速中性子を\( \ 2~3 \ \)個程度出します。高速中性子が再び減速材(軽水)にて減速され熱中性子になり,また別のウラン\( \ 235 \ \)に衝突することで連鎖反応を繰り返します。

②ウラン\( \ 238 \ \)の核分裂反応
親物質であるウラン\( \ 238 \ \)は熱中性子を一旦捕獲・吸収することで,核分裂性物質であるプルトニウム\( \ 239 \ \)になり,ウラン\( \ 235 \ \)と同様な核分裂反応を起こします。

以上のような過程を繰り返すことで連鎖反応を起こすのが原子炉での核分裂反応となります。
天然ウランでは\( \ 99 \ \mathrm {%} \ \)以上がウラン\( \ 238 \ \)でウラン\( \ 235 \ \)の割合は\( \ 0.7 \ \mathrm {%} \ \)程度しかなく,これでは連鎖反応が続かないので,連鎖反応が継続可能な\( \ 3 ~ 5 \ \mathrm {%} \ \)程度に濃縮(低濃縮ウラン)して使用します。

2.原子炉の型式
①沸騰水型(BWR)
蒸気発生器を持たないので,放射性物質がタービンに直接持ち込まれるのが大きな特徴で,他には以下の特徴があります。
・炉心圧力が低く蒸気発生器や加圧器がないので,構造が加圧水型(PWR)と比較して簡単
・再循環ポンプを持ち,ポンプでの流量によって出力を調整する。
・制御棒でも出力を調整するが,汽水分離器があるので,下から上に向かって挿入される。
・何らかの原因で出力が上昇すると気泡が発生し,反応が抑制されるため,自動で出力が抑制される。

②加圧水型(PWR)
蒸気発生器で蒸気を発生させるので,通常運転時放射性物質がタービンに持ち込まれないという特徴があり,他にも以下のような特徴があります。
・タービン系統に放射性物質が持ち込まれないので,タービンや復水器のメンテナンス時に放射能対策が不要。
・加圧器を持ち,原子炉内の圧力が高い。圧力を上げることで軽水の沸点が上がるので,沸騰しない。
・ホウ素濃度で出力調整を行う。
・制御棒の抜き差しでも出力調整するが,上から下に向かって挿入されるため,安全性に有利である。
・蒸気発生器等の過程を経る分,若干熱効率は劣る。


引用:資源エネルギー庁原子力白書2013

【解答】

解答:(2)
(1)正しい
問題文の通り,原子力発電は核分裂反応のより発生する熱エネルギーにより水を蒸気に変えて,蒸気タービンを回すことで発電する方法です。

(2)誤り
ワンポイント解説「1.原子炉での核分裂反応」の通り,軽水炉は減速材と冷却材に軽水を使用する原子炉で,ワンポイント解説「2.原子炉の型式」の通り,沸騰水型と加圧水型があります。軽水炉で用いられる減速材は黒鉛ではなく軽水です。

(3)正しい
ワンポイント解説「1.原子炉での核分裂反応」の通り,軽水炉は天然ウラン(濃度約\( \ 0.7 \ \mathrm {%} \ \))中のウラン\( \ 235 \ \)の濃度を\( \ 3 ~ 5 \ \mathrm {%} \ \)程度に濃縮した低濃縮ウランを使用します。

(4)正しい
問題文の通り,核分裂反応を起こさせるために熱中性子を用いる原子炉を熱中性子炉といい,ワンポイント解説「1.原子炉での核分裂反応」の通り,軽水炉も熱中性子炉となります。

(5)正しい
ワンポイント解説「2.原子炉の型式」の通り,沸騰水型軽水炉は再循環ポンプと制御棒,加圧水型軽水炉はほう素濃度と制御棒により出力調整されます。