《理論》〈電子理論〉[R01:問17]NAND ICを用いたパルス回路に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

\( \ \mathrm {NAND} \ \mathrm {IC} \ \)を用いたパルス回路について,次の(a)及び(b)の問に答えよ。ただし,高電位を「\( \ 1 \ \)」,低電位を「\( \ 0 \ \)」と表すことにする。

(a) \( \ \mathrm {p} \ \)チャネル及び\( \ \mathrm {n} \ \)チャネル\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)を用いて構成された図1の回路と真理値表が同一となるものを,図2の\( \ \mathrm {NAND} \ \)回路の接続(イ),(ロ),(ハ)から選び,全て列挙したものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

 (1) \((イ)\)  (2) \((ロ)\)  (3) \((ハ)\)  (4) \((イ),(ロ)\)  (5) \((イ),(ハ)\)

(b) 図3の三つの回路はいずれもマルチバイブレータの一種であり,これらの回路図において\( \ \mathrm {NAND} \ \mathrm {IC} \ \)の電源及び接地端子は省略している。同図(ニ),(ホ),(ヘ)の入力の数がそれぞれ\( \ 0 \ \),\( \ 1 \ \),\( \ 2 \ \)であることに注意して,これら三つの回路と次の二つの性質を正しく対応づけたものの組合せとして,正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

性質Ⅰ:
出力端子からパルスが連続的に発生し,ディジタル回路の中で発振器として用いることができる。

性質Ⅱ:
「\( \ 0 \ \)」や「\( \ 1 \ \)」を記憶する機能をもち,フリップフロップの構成にも用いられる。

\[
\begin{array}{ccc}
&  性質Ⅰ  &  性質Ⅱ  \\
\hline
(1) & (ニ) & (ホ) \\
\hline
(2) & (ニ) & (ヘ) \\
\hline
(3) & (ホ) & (ニ) \\
\hline
(4) & (ホ) & (ヘ) \\
\hline
(5) & (ヘ) & (ホ) \\
\hline
\end{array}
\]

【ワンポイント解説】

理論科目というよりは,機械科目に出題されそうな問題です。\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)の性質を知っていること,\( \ \mathrm {NAND} \ \)回路や\( \ \mathrm {NOT} \ \)回路の動作を知っていること等様々な知識が求められる総合問題と言えると思います。

1.\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)の動作
①\( \ \mathrm {n} \ \)チャネル\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)
図4のように\( \ \mathrm {p} \ \)形半導体基板の上に\( \ \mathrm {n} \ \)形半導体を接合した構造をしています。
ゲートに正の電圧を加えることで,電子がゲートに引き寄せられ,ソース-ドレイン間が導通するようになります。

②\( \ \mathrm {p} \ \)チャネル\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)
図5のように\( \ \mathrm {n} \ \)形半導体基板の上に\( \ \mathrm {p} \ \)形半導体を接合した構造をしています。
ゲートに負の電圧を加えることで,正孔がゲートに引き寄せられ,ソース-ドレイン間が導通するようになります。
\( \ \mathrm {n} \ \)チャネル\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)と構造も動作も逆の動作となります。

2.\( \ \mathrm {NAND} \ \)回路
\( \ \mathrm {NAND} \ \)回路は二つの入力がともに\( \ 1 \ \)の時のみ\( \ 0 \ \)が出力される回路です。

 表1 \( \ \mathrm {NAND} \ \)回路
\[
\begin{array}{c|cc}
{ }_{A}\setminus { }^{B} & 0 & 1 \\
\hline
0 & 1 & 1 \\
1 & 1 & 0 \\
\end{array}
\]

【解答】

(a)解答:(5)
ワンポイント解説「1.\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)の動作」の通り,図1において,入力のゲート電圧が高電圧すなわち入力が\( \ 1 \ \)であった場合,図1の下の\( \ \mathrm {n} \ \)チャネル\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)がオンとなり,出力は\( \ 0 \ \)となります。
一方,入力のゲート電圧が低電圧すなわち入力が\( \ 0 \ \)であった場合,図1の上の\( \ \mathrm {p} \ \)チャネル\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)がオンとなり,出力は\( \ 1 \ \)となります。
したがって,図1は入力の反対を出力する\( \ \mathrm {NOT} \ \)回路となります。
図2において,(イ)の回路は入力が\( \ 0 \ \)の時出力が\( \ 1 \ \),入力が\( \ 1 \ \)の時出力が\( \ 0 \ \)となります。したがって\( \ \mathrm {NOT} \ \)回路となります。
(ロ)の回路は入力が\( \ 0 \ \)の時出力が\( \ 1 \ \),入力が\( \ 1 \ \)の時も出力が\( \ 1 \ \)となります。したがって\( \ \mathrm {NOT} \ \)回路となりません。
(ハ)の回路は入力が\( \ 0 \ \)の時出力が\( \ 1 \ \),入力が\( \ 1 \ \)の時出力が\( \ 0 \ \)となります。したがって\( \ \mathrm {NOT} \ \)回路となります。
よって,図2のうち図1の回路と真理値表が同一となるものは(イ)と(ハ)となります。

(b)解答:(2)
(ニ)の回路は左側の\( \ \mathrm {NAND} \ \)の入力が\( \ 0 \ \)であった場合,左側の\( \ \mathrm {NAND} \ \)の出力が\( \ 1 \ \)となり,右側の\( \ \mathrm {NAND} \ \)に\( \ 1 \ \)が入力されます。その後,右側の\( \ \mathrm {NAND} \ \)の出力は\( \ 0 \ \)となります。
この出力は,抵抗を介して右側の\( \ \mathrm {NAND} \ \)に\( \ 0 \ \)が入力され,右側の\( \ \mathrm {NAND} \ \)から\( \ 1 \ \)が出力されます。
一方,左側の\( \ \mathrm {NAND} \ \)には右側の\( \ \mathrm {NAND} \ \)の出力である\( \ 0 \ \)が入力され,左側の\( \ \mathrm {NAND} \ \)の出力が\( \ 1 \ \)となり,右側の\( \ \mathrm {NAND} \ \)に\( \ 1 \ \)が入力され,右側の\( \ \mathrm {NAND} \ \)には再び\( \ 0 \ \)が出力されます。
これらの性質により,右側の出力\( \ 0 \ \)と\( \ 1 \ \)を繰り返すため,(ニ)の回路は発振回路となります。

(ホ)の回路は入力が\( \ 0 \ \)の時は,左側の\( \ \mathrm {NAND} \ \)の出力は常に\( \ 0 \ \)となるので発振回路となりません。
入力が\( \ 1 \ \)の時は,左側の\( \ \mathrm {NAND} \ \)の上側の入力が\( \ 0 \ \)であった場合,左側の\( \ \mathrm {NAND} \ \)の出力が\( \ 1 \ \)となり,右側の\( \ \mathrm {NAND} \ \)に\( \ 1 \ \)が入力され,右側の\( \ \mathrm {NAND} \ \)の出力が\( \ 0 \ \)となります。
その後抵抗を介して接地されているので,右側の\( \ \mathrm {NAND} \ \)に\( \ 0 \ \)が入力され,右側の\( \ \mathrm {NAND} \ \)の出力が\( \ 1 \ \)となります。
このような性質により,入力が\( \ 1 \ \)の時は発振回路となる回路となります。

(ヘ)の回路は入力\( \ 1 \ \),\( \ 2 \ \)共に\( \ 0 \ \)の時は,出力は常に\( \ 0 \ \),この状態でどちらかが\( \ 1 \ \)になっても出力は\( \ 0 \ \)を保持するため,どちらかの入力が\( \ 0 \ \)の時は常に\( \ 0 \ \)を出力することになります。
入力が共に\( \ 1 \ \)の時は,出力は\( \ 0 \ \)もしくは\( \ 1 \ \)が保持された状態となり,記憶される状態となります。
したがって,この回路は入力を適切に設定することでセットとリセットをすることができるフリップフロップとして機能することになります。

したがって,性質Ⅰを満たすのが(ニ),性質Ⅱを満たすのが(ヘ)となります。