《理論》〈電子理論〉[R4上:問18]トランジスタ増幅器のバイアス回路に関する計算・空欄穴埋問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

図1,図2及び図3は,トランジスタ増幅器のバイアス回路を示す。次の(a)及び(b)の問に答えよ。

ただし,\( \ V_{\mathrm {CC}} \ \)は電源電圧,\( \ V_{\mathrm {B}} \ \)はベース電圧,\( \ I_{\mathrm {B}} \ \)はベース電流,\( \ I_{\mathrm {C}} \ \)はコレクタ電流,\( \ I_{\mathrm {E}} \ \)はエミッタ電流,\( \ R \ \),\( \ R_{\mathrm {B}} \ \),\( \ R_{\mathrm {C}} \ \)及び\( \ R_{\mathrm {E}} \ \)は抵抗を示す。

(a) 次の①式,②式及び③式は,図1,図2及び図3のいずれかの回路のベース・エミッタ間の電圧\( \ V_{\mathrm {BE}} \ \)を示す。
\[
\begin{eqnarray}
V_{\mathrm {BE}} &=&V_{\mathrm {B}}-I_{\mathrm {E}}\cdot R_{\mathrm {E}}   &・・・・・・・・・・ ①& \\[ 5pt ] V_{\mathrm {BE}} &=&V_{\mathrm {CC}}-I_{\mathrm {B}}\cdot R   &・・・・・・・・・・ ②& \\[ 5pt ] V_{\mathrm {BE}} &=&V_{\mathrm {CC}}-I_{\mathrm {B}}\cdot R-I_{\mathrm {E}}\cdot R_{\mathrm {C}}   &・・・・・・・・・・ ③& \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] 上記の式と図の組合せとして,正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
\[
\begin{array}{cccc}
& ①式 & ②式 & ③式 \\
\hline
(1) &   図 \ 1   &   図 \ 2   &   図 \ 3   \\
\hline
(2) &   図 \ 2   &   図 \ 3   &   図 \ 1   \\
\hline
(3) &   図 \ 3   &   図 \ 1   &   図 \ 2   \\
\hline
(4) &   図 \ 1   &   図 \ 3   &   図 \ 2   \\
\hline
(5) &   図 \ 3   &   図 \ 2   &   図 \ 1   \\
\hline
\end{array}
\]

(b) 次の文章a,b及びcは,それぞれのバイアス回路における周囲温度の変化と電流\( \ I_{\mathrm {C}} \ \)との関係について述べたものである。
ただし,\( \ h_{\mathrm {FE}} \ \)は直流電流増幅率を表す。

a 温度上昇により\( \ h_{\mathrm {FE}} \ \)が増加すると\( \ I_{\mathrm {C}} \ \)が増加し,バイアス安定度が悪いバイアス回路の図は\( \ \fbox {  (ア)  } \ \)である。

b \( \ h_{\mathrm {FE}} \ \)の変化により\( \ I_{\mathrm {C}} \ \)が増加しようとすると,\( \ V_{\mathrm {B}} \ \)はほぼ一定であるから\( \ V_{\mathrm {BE}} \ \)が減少するので,\( \ I_{\mathrm {C}} \ \)や\( \ I_{\mathrm {E}} \ \)の増加を妨げるように働く。\( \ I_{\mathrm {C}} \ \)の変化の割合が比較的低く,バイアス安定度が良いものの,電力損失が大きいバイアス回路の図は\( \ \fbox {  (イ)  } \ \)である。

c \( \ h_{\mathrm {FE}} \ \)の変化により\( \ I_{\mathrm {C}} \ \)が増加しようとすると,\( \ R_{\mathrm {C}} \ \)の電圧降下も増加することでコレクタ・エミッタ間の電圧\( \ V_{\mathrm {CE}} \ \)が低下する。これにより\( \ R \ \)の電圧が減少して\( \ I_{\mathrm {B}} \ \)が減少するので,\( \ I_{\mathrm {C}} \ \)の増加が抑えられるバイアス回路の図は\( \ \fbox {  (ウ)  } \ \)である。

上記の記述中の空白箇所(ア)~(ウ)に当てはまる組合せとして,正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
\[
\begin{array}{cccc}
& ①式 & ②式 & ③式 \\
\hline
(1) &   図 \ 1   &   図 \ 2   &   図 \ 3   \\
\hline
(2) &   図 \ 2   &   図 \ 3   &   図 \ 1   \\
\hline
(3) &   図 \ 3   &   図 \ 1   &   図 \ 2   \\
\hline
(4) &   図 \ 1   &   図 \ 3   &   図 \ 2   \\
\hline
(5) &   図 \ 2   &   図 \ 1   &   図 \ 3   \\
\hline
\end{array}
\]

【ワンポイント解説】

バイポーラトランジスタのバイアス回路に関する問題です。
図1が固定バイアス回路,図2が自己バイアス回路,図3が電流帰還バイアス回路と呼ばれます。いずれも電子回路の教科書には掲載されている内容ですが,名称よりも定性的なメカニズムを理解するようにして下さい。

1.バイポーラトランジスタのバイアス回路
①固定バイアス回路
問題の図1に示す回路となります。
バイアス回路の中で最も単純な構成の回路ですが,温度上昇により\( \ h_{\mathrm {FE}} \ \)が増加すると\( \ I_{\mathrm {C}} \ \)が増加し,バイアス安定度が悪くなる特徴があります。
定量的には以下の通りとなります。
\( \ V_{\mathrm {CC}} \ \)→\( \ R \ \)→トランジスタ→\( \ V_{\mathrm {CC}} \ \)の閉回路において,
\[
\begin{eqnarray}
V_{\mathrm {CC}}&=&RI_{\mathrm {B}}+V_{\mathrm {BE}} \\[ 5pt ] RI_{\mathrm {B}}&=&V_{\mathrm {CC}}-V_{\mathrm {BE}} \\[ 5pt ] I_{\mathrm {B}}&=&\frac {V_{\mathrm {CC}}-V_{\mathrm {BE}}}{R} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] であり,バイポーラトランジスタにおいては\( \ V_{\mathrm {BE}} \ \)は一定として扱い,\( \ V_{\mathrm {CC}} \ \),\( \ R \ \)も一定なので,\( \ I_{\mathrm {B}} \ \)は一定となります。
したがって,コレクタ電流\( \ I_{\mathrm {C}} \ \)は,トランジスタの電流増幅率を\( \ h_{\mathrm {FE}} \ \)とすると,
\[
\begin{eqnarray}
I_{\mathrm {C}}&=&h_{\mathrm {FE}}I_{\mathrm {B}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となるので,トランジスタの動作点が変わり,場合によっては交流信号の波形がひずむ可能性があります。

②自己バイアス回路
問題の図2に示すような回路となります。
温度上昇により\( \ h_{\mathrm {FE}} \ \)が増加しても\( \ I_{\mathrm {C}} \ \)の上昇を抑えられる回路です。
定量的には以下の通りとなります。
\( \ V_{\mathrm {CC}} \ \)→\( \ R_{\mathrm {C}} \ \)→\( \ R \ \)→トランジスタ→\( \ V_{\mathrm {CC}} \ \)の閉回路において,
\[
\begin{eqnarray}
V_{\mathrm {CC}}&=&V_{\mathrm {BE}}+RI_{\mathrm {B}}+R_{\mathrm {C}}\left( I_{\mathrm {B}}+I_{\mathrm {C}}\right) \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,\( \ I_{\mathrm {C}}≫I_{\mathrm {B}} \ \)より,
\[
\begin{eqnarray}
V_{\mathrm {CC}}&≃&V_{\mathrm {BE}}+RI_{\mathrm {B}}+R_{\mathrm {C}}I_{\mathrm {C}} \\[ 5pt ] RI_{\mathrm {B}}&=&V_{\mathrm {CC}}-V_{\mathrm {BE}}-R_{\mathrm {C}}I_{\mathrm {C}} \\[ 5pt ] I_{\mathrm {B}}&=&\frac {V_{\mathrm {CC}}-V_{\mathrm {BE}}-R_{\mathrm {C}}I_{\mathrm {C}}}{R} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となるので,仮に\( \ h_{\mathrm {FE}} \ \)が変化し\( \ I_{\mathrm {C}} \ \)が上昇しても上式により\( \ I_{\mathrm {B}} \ \)が低下することになり,結果的に\( \ I_{\mathrm {C}} \ \)の上昇が抑えられることになります。

③電流帰還バイアス回路
問題の図3に示す回路となります。
\( \ I_{\mathrm {C}} \ \)の変化の割合が比較的低く,バイアスの安定度が良いですが,\( \ R_{\mathrm {B}} \ \)に流す電流の分,電力損失が大きいバイアス回路となります。
定量的には以下の通りとなります。
ベース電流\( \ I_{\mathrm {B}} \ \)は十分に小さいとすると,ベース電位\( \ V_{\mathrm {B}} \ \)は,分圧の法則より,
\[
\begin{eqnarray}
V_{\mathrm {B}}&=&\frac {R_{\mathrm {B}}}{R+R_{\mathrm {B}}}V_{\mathrm {CC}}\\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,ほぼ一定となります。これより,エミッタ電流\( \ I_{\mathrm {E}} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
I_{\mathrm {E}}&=&\frac {V_{\mathrm {B}}-V_{\mathrm {BE}}}{R_{\mathrm {E}}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,上式を変形すると,
\[
\begin{eqnarray}
R_{\mathrm {E}}I_{\mathrm {E}}&=&V_{\mathrm {B}}-V_{\mathrm {BE}} \\[ 5pt ] V_{\mathrm {BE}}&=&V_{\mathrm {B}}-R_{\mathrm {E}}I_{\mathrm {E}} \\[ 5pt ] &≃&V_{\mathrm {B}}-R_{\mathrm {E}}I_{\mathrm {C}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。この式より,仮に\( \ h_{\mathrm {FE}} \ \)が変化し\( \ I_{\mathrm {C}} \ \)が上昇しても\( \ V_{\mathrm {BE}} \ \)が減少するので\( \ I_{\mathrm {B}} \ \)が低下するというバイアスがかかることになります。

【解答】

(a)解答:(3)
図1-1に示す閉回路において,回路方程式は,
\[
\begin{eqnarray}
V_{\mathrm {CC}}&=&V_{\mathrm {BE}}+RI_{\mathrm {B}} \\[ 5pt ] V_{\mathrm {BE}}&=&V_{\mathrm {CC}}-RI_{\mathrm {B}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,②式に該当する。

図2-1に示す閉回路において,回路方程式は,
\[
\begin{eqnarray}
V_{\mathrm {CC}}&=&V_{\mathrm {BE}}+RI_{\mathrm {B}}+R_{\mathrm {C}}\left( I_{\mathrm {B}}+I_{\mathrm {C}}\right) \\[ 5pt ] &=&V_{\mathrm {BE}}+RI_{\mathrm {B}}+R_{\mathrm {C}}I_{\mathrm {E}} \\[ 5pt ] V_{\mathrm {BE}}&=&V_{\mathrm {CC}}-RI_{\mathrm {B}}-R_{\mathrm {C}}I_{\mathrm {E}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,③式に該当する。

図3-1に示す閉回路において,ベース電流\( \ I_{\mathrm {B}} \ \)は十分に小さいとすると,ベース電位\( \ V_{\mathrm {B}} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
V_{\mathrm {B}}&=&\frac {R_{\mathrm {B}}}{R+R_{\mathrm {B}}}V_{\mathrm {CC}}\\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,ほぼ一定となる。これより,エミッタ電流\( \ I_{\mathrm {E}} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
I_{\mathrm {E}}&=&\frac {V_{\mathrm {B}}-V_{\mathrm {BE}}}{R_{\mathrm {E}}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,上式を変形すると,
\[
\begin{eqnarray}
R_{\mathrm {E}}I_{\mathrm {E}}&=&V_{\mathrm {B}}-V_{\mathrm {BE}} \\[ 5pt ] V_{\mathrm {BE}}&=&V_{\mathrm {B}}-R_{\mathrm {E}}I_{\mathrm {E}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,①式に該当する。

(b)解答:(4)
(ア)
ワンポイント解説「1.バイポーラトランジスタのバイアス回路」の通り,バイアス安定度が悪いバイアス回路は固定バイアス回路である図1となります。

(イ)
ワンポイント解説「1.バイポーラトランジスタのバイアス回路」の通り,\( \ V_{\mathrm {B}} \ \)はほぼ一定でバイアス安定度が良いものの,電力損失が大きいバイアス回路は電流帰還バイアス回路なので図3となります。

(ウ)
ワンポイント解説「1.バイポーラトランジスタのバイアス回路」の通り,題意に沿うバイアスがかかる回路は自己バイアス回路なので図2となります。