Contents
【問題】
【難易度】★★☆☆☆(やや易しい)
電界効果トランジスタ\( \ \left( \mathrm {FET}\right) \ \)に関する記述として,誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
(1) 接合形と\( \ \mathrm {MOS} \ \)形に分類することができる。
(2) ドレーンとソースとの間の電流の通路には,\( \ \mathrm {n} \ \)形と\( \ \mathrm {p} \ \)形がある。
(3) \( \ \mathrm {MOS} \ \)形はデプレション形とエンハンスメント形に分類できる。
(4) ゲート電圧で自由電子又は正孔の移動を制御できる。
(5) エンハンスメント形はゲート電圧に関係なくチャネルができる。
【ワンポイント解説】
電界効果トランジスタに関する問題です。
トランジスタに関しては構造の理解や動作原理を理解していることが重要です。本問のように図が与えられていなくても構造は描けるようにしておいて下さい。
本問は平成16年問10からの再出題となります。
1.接合形\( \ \mathrm {FET} \ \)の動作原理
接合形\( \ \mathrm {FET} \ \)(\( \ \mathrm {n} \ \)チャネル)は,図1のように\( \ \mathrm {n} \ \)形半導体と\( \ \mathrm {p} \ \)形半導体を接合し,\( \ \mathrm {n} \ \)形半導体にソース\( \ \mathrm {S} \ \)とドレーン\( \ \mathrm {D} \),\( \ \mathrm {p} \ \)形半導体にゲート\( \ \mathrm {G} \ \)を取り付けた素子です。

図1に示すように,ゲート-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {GS}} \ \)が零でドレーン-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {DS}} \ \)を加えると,\( \ \mathrm {n} \ \)形半導体内のキャリヤ(電子)が移動することでドレーン電流\( \ I_{\mathrm {D}} \ \)が流れます。
しかしながら,図2に示すようにゲート-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {GS}} \ \)に逆電圧を加えると,\( \ \mathrm {pn} \ \)接合部に空乏層が形成されるので,ドレーン-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {DS}} \ \)を加えても\( \ \mathrm {n} \ \)形半導体の流路が狭くなり,ドレーン電流\( \ I_{\mathrm {D}} \ \)が流れにくくなります。
このように,ゲート-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {GS}} \ \)の大きさを変化させることによりドレーン電流\( \ I_{\mathrm {D}} \ \)が制御できる素子となります。

2.\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)の動作原理
\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)(\( \ \mathrm {n} \ \)チャネル)は,図3のように\( \ \mathrm {p} \ \)形基板表面に\( \ \mathrm {n} \ \)形のソース\( \ \mathrm {S} \ \)とドレーン\( \ \mathrm {D} \ \)を形成し,ゲート\( \ \mathrm {G} \ \)を電子や正孔を通さない薄いゲート酸化膜を介して形成する素子です。

図3のように,ゲート-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {GS}} \ \)が零のとき,ドレーン-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {DS}} \ \)を加えても,\( \ \mathrm {p} \ \)形基板によりドレーン-ソース間は導通せず,ドレーン電流\( \ I_{\mathrm {D}} \ \)は流れません。
図4のように,ゲート-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {GS}} \ \)を加えると,ゲート電極に電子が引き寄せられ,疑似的な\( \ \mathrm {n} \ \)形の層ができ,ドレーン-ソース間が導通するようになり,ドレーン電流\( \ I_{\mathrm {D}} \ \)が流れるようになります。そのままドレーン-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {DS}} \ \)を大きくしていっても,ある値を上限に\( \ \mathrm {n} \ \)層の導通路の幅が支配的となり,ドレーン電流\( \ I_{\mathrm {D}} \ \)は大きくなりません。
一方,ゲート-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {GS}} \ \)を大きくすると,\( \ \mathrm {n} \ \)層の導通路が大きくなるので,ドレーン電流\( \ I_{\mathrm {D}} \ \)が大きくなります。
したがって,ドレーン電流\( \ I_{\mathrm {D}} \ \)はゲート-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {GS}} \ \)でコントロールできることがわかります。

さらに\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)にはここまでに説明してきたようなゲート-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {GS}} \ \)が零のとき導通路がないエンハンスメント形に加え,図5に示すようなゲート-ソース間電圧\( \ V_{\mathrm {GS}} \ \)が零でも導通路があるデプレッション形があります。デプレッション形においては\( \ V_{\mathrm {GS}} \ \)に負の電圧を加えることで導通路を狭くしてドレーン電流\( \ I_{\mathrm {D}} \ \)を制御することもできます。

【解答】
解答:(5)
(1)正しい
ワンポイント解説「1.接合形\( \ \mathrm {FET} \ \)の動作原理」及び「2.\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)の動作原理」の通り,電界効果トランジスタ\( \ \left( \mathrm {FET}\right) \ \)は接合形と\( \ \mathrm {MOS} \ \)形に分類することができます。
(2)正しい
問題文の通り,ドレーンとソースとの間の電流の通路には,\( \ \mathrm {n} \ \)形と\( \ \mathrm {p} \ \)形があります。
(3)正しい
ワンポイント解説「2.\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)の動作原理」の通り,\( \ \mathrm {MOS} \ \)形はデプレション形とエンハンスメント形に分類できます。
(4)正しい
ワンポイント解説「1.接合形\( \ \mathrm {FET} \ \)の動作原理」及び「2.\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)の動作原理」の通り,電界効果トランジスタ\( \ \left( \mathrm {FET}\right) \ \)はゲート電圧で導通路を制御し自由電子又は正孔の移動を制御できます。
(5)誤り
ワンポイント解説「2.\( \ \mathrm {MOSFET} \ \)の動作原理」の通り,ゲート電圧に関係なくチャネルができるのはエンハンスメント形ではなくデプレッション形となります。