《理論》〈電子理論〉[R01:問13]負帰還増幅回路に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★★☆（やや難しい）

図のように電圧増幅度\( \ A_{\mathrm {v}} ( ＞0 ) \ \)の増幅回路と帰還率\( \ \beta ( 0＜\beta ≦ 1 ) \ \)の帰還回路からなる負帰還増幅回路がある。この負帰還増幅回路に関する記述として，正しいものを次の(1)～(5)のうちから一つ選べ。ただし，帰還率\( \ \beta \ \)は周波数によらず一定であるものとする。

(1)　負帰還増幅回路の帯域幅は，負帰還をかけない増幅回路の帯域幅よりも狭くなる。

(2)　電源電圧の変動に対して負帰還増幅回路の利得は，負帰還をかけない増幅回路よりも不安定である。

(3)　負帰還をかけることによって，増幅回路の内部で発生するひずみや雑音が増加する。

(4)　負帰還をかけない増幅回路の電圧増幅度\( \ A_{\mathrm {v}} \ \)と帰還回路の帰還率\( \ \beta \ \)の積が\( \ 1 \ \)より十分小さいとき，負帰還増幅回路全体の電圧増幅度は帰還率\( \ \beta \ \)の逆数で近似できる。

(5)　負帰還増幅回路全体の利得は，負帰還をかけない増幅回路の利得よりも低下する。

【ワンポイント解説】

負帰還増幅回路に関する問題で，機械科目の自動制御のフィードバック制御に関係するような内容です。増幅器単体で用いると電圧利得のコントロールが難しくなるため，問題図のような負帰還回路を用います。マイナス（負）で出力を帰還するため，負帰還増幅回路という名称となっています。

1.負帰還増幅回路の電圧増幅率
問題図において，入力電圧を\( \ v_{\mathrm {i}} \ \)，出力電圧を\( \ v_{\mathrm {o}} \ \)とすると，
\[
\begin{eqnarray}
\left( v_{\mathrm {i}}-\beta v_{\mathrm {o}} \right) A_{\mathrm {v}}&=&v_{\mathrm {o}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] の関係があるので，式を整理すると，全体の増幅率\( \ \displaystyle \frac {v_{\mathrm {o}}}{v_{\mathrm {i}}} \ \)は，
\[
\begin{eqnarray}
A_{\mathrm {v}}v_{\mathrm {i}}-A_{\mathrm {v}}\beta v_{\mathrm {o}} &=&v_{\mathrm {o}} \\[ 5pt ] v_{\mathrm {o}}+A_{\mathrm {v}}\beta v_{\mathrm {o}} &=&A_{\mathrm {v}}v_{\mathrm {i}} \\[ 5pt ] \left( 1+A_{\mathrm {v}}\beta \right) v_{\mathrm {o}} &=&A_{\mathrm {v}}v_{\mathrm {i}} \\[ 5pt ] \frac {v_{\mathrm {o}}}{v_{\mathrm {i}}}&=&\frac {A_{\mathrm {v}}}{1+A_{\mathrm {v}}\beta } \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められます。さらに，\( \ A_{\mathrm {v}}≫1 \ \)であるとすると，
\[
\begin{eqnarray}
\frac {v_{\mathrm {o}}}{v_{\mathrm {i}}}&=&\frac {A_{\mathrm {v}}}{1+A_{\mathrm {v}}\beta } \\[ 5pt ] &=&\frac {1}{\displaystyle \frac {1}{A_{\mathrm {v}}}+\beta } \\[ 5pt ] &≃&\frac {1}{\beta } \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

2.負帰還増幅回路を導入する効果
負帰還増幅回路を導入することにより以下のような効果があります。
①増幅回路\( \ A_{\mathrm {v}} \ \)が大きい場合，増幅回路の利得を帰還率\( \ \beta \ \)のみでコントロールすることが可能
②電源電圧の変動に対して安定的となる
③増幅回路で発生するひずみや外乱が抑制される
④増幅回路の利得が一定となる帯域幅が大きくなる

【解答】

解答：(5)
(1)：誤り
ワンポイント解説「2.負帰還増幅回路を導入する効果」の通り，帯域幅は負帰還回路を入れた方が大きくなります。

(2)：誤り
ワンポイント解説「2.負帰還増幅回路を導入する効果」の通り，電源電圧の変動に対しては負帰還回路を入れた方が安定するようになります。

(3)：誤り
ワンポイント解説「2.負帰還増幅回路を導入する効果」の通り，ひずみや雑音に対しては負帰還回路を入れた方が強くなります。

(4)：誤り
ワンポイント解説「1.負帰還増幅回路の電圧増幅率」の通り，\( \ A_{\mathrm {v}}≫1 \ \)の時電圧増幅度は帰還率\( \ \beta \ \)の逆数となります。\( \ A_{\mathrm {v}}\beta ≫1 \ \)の場合は，電圧増幅率はほぼ\( \ A_{\mathrm {v}} \ \)となります。

(5)：正しい
電圧増幅率が\( \ A_{\mathrm {v}} \ \)から\( \ \displaystyle \frac {A_{\mathrm {v}}}{1+A_{\mathrm {v}}\beta } \ \)に減少する分，電圧利得も減少します。